ご注意ください。
内容は、掲載当時(2005年)のものであり、現在の状況とは異なる場合もありますので、あらかじめご了承ください。

・山本利春、岩垣光洋、笠原政志、太田千尋、加藤義明、安ヶ平浩、清水宜雄:スポーツ現場におけるスポーツ医科学サポート活動を通じたトレーナー教育の実践報告(2)〜アスリートの体力測定を通じた傷害予防とリコンディショニング〜、平成16年度 武道・スポーツ科学研究所年報第10号:135−144、2005.

スポーツ現場におけるスポーツ医科学サポート活動を通じたトレーナー教育の実践報告(2)
〜アスリートの体力測定を通じた傷害予防とリコンディショニング〜

研究者代表 山本利春(国際武道大学)
共同研究者 岩垣光洋(国際武道大学)、笠原政志、太田千尋、加藤義明(国際武道大学大学院)、安ヶ平浩、清水宜雄(国際武道大学)

1.はじめに

 スポーツ選手が最高のパフォーマンスを発揮するためには、選手の体力や技術をよりいっそう高め、外傷・障害・疾病などに伴う影響をより少なくするためのコンディショニングが重要である。近年、それらのアプローチを実施するための医・科学サポートが重要視されており、その役割を果たす専門家としてアスレティックトレーナーの存在が注目されている。本学においてもその社会的なニーズに対応し、国内では初のスポーツトレーナー学科を開設した。本学のような体育系大学が医療系あるいはフィットネス系の専門学校に比べてアスレティックトレーナーの教育に適していると考えられる理由は、スポーツ現場での実践的な活動を通じて臨床的経験を積みながらの実地教育ができることである。

 米国におけるトレーナー教育の例をとってみても、その教育内容の中心はスポーツ現場における実践的な知識と技術の習得、そして経験である。したがって、アスレティックトレーナーを目指すならば、医療専門学校や各省認定の講習会だけでは不十分で、スポーツ現場をもち、スポーツ医・科学的なカリキュラムが充実している体育系大学、できれば経験を積んだトレーナーが教員として存在する教育現場が望ましいと思われる。

 研究では、そのようなトレーナー活動を通じた「トレーナー教育」の意義を本学の学生トレーナーの教育における実践報告をもとに立証し、今後のトレーナー教育のあり方を方向づける資料を得ることを目的とする。また、本学のスポーツトレーナー学科の教育コンセプトの裏付けとなる資料を得ることができると考える。

 初年度である2003年度は、「競技会における救護活動と傷害予防教育の実践」と題し、特にアスレティックトレーナーの活動として代表的なスポーツ選手の競技活動中のスポーツ医科学サポートである競技会時の救護、コンディショニング指導、傷害相談などの、いわゆる競技会時のトレーナーステーション活動の企画、運営、報告を通じた実践教育の事例をまとめた。中学生における陸上競技大会、空手・柔道・剣道およびライフセービングの大会時のトレーナーステーション活動を学生トレーナーが企画・運営を行い、選手の教育や事故防止において多大な成果を得た。学生トレーナーの教育としての成果もさることながら社会貢献としての意義も大きいと思われた内容であった。

 プロジェクト研究の2年目にあたる2004年度は、トレーナー活動の実践の場をアスリートの体力測定とフィードバックを通じた傷害予防とリコンディショニングへのアプローチに焦点をあて、スポーツ医科学サポート活動を学生トレーナーが実践していく過程で、どのような教育的意義をもつかを検討し、トレーナーの育成としての教育成果を報告することを目的とした。 

2.アスリートの体力測定を通じた学生トレーナーの実践的教育

 本学ではリコンディショニングルームが武道・スポーツ科学研究所内に設置されており、スポーツ医科学的各種体力測定が可能な機器が整っているため、学内外の各チーム単位の体力測定を、学生トレーナーの活動の一環として行っている。特にシーズン・オフ前後のコンディショニングのチェックやトレーニング効果の判定など、学外のJリーグやVリーグ、企業チームのラグビーやバレーボールなどのチームの測定も依頼され、コンディショニングのサポートを行っている。これまで本学で行った体力測定のデータ蓄積は莫大であり、データの評価やフィードバックの際に貴重な資料として大いに役立っている。

 本研究では、これらのアスリートの傷害予防やコンディショニングを目的とした体力測定及びその結果のフィードバックのためのセミナーなどのトレーナー活動を誘致し、学生自身に企画立案、運営、成果報告などの一連の活動を教育的視野から報告し、教育的・社会的意義について考察した。

3.各種対象における測定評価の実践事例

3-1 国際武道大学新入生を対象としたスポーツ傷害予防のためのスクリーニングテスト

1) 活動概要

 国際武道大学では毎年4月に新入生のオリエンテーションの一環として、スポーツ傷害予防のためのスクリーニングテスト(以下スクリーニングテスト)を実施している(図1)。 この目的は、これから実技授業やクラブ活動において本格的にスポーツを行っていく新入生のケガの予防を狙いとしている。このスクリーニングテストは当日約600名の新入生を約半日で実施しなくてはならないため、事前から粘密な準備を行い効率よく進められるよう配慮する必要がある。そして、当日は傷害要因をスクリーニングするために必要な有効性の高い測定項目を実施し、その結果を踏まえてアスレティックトレーナーが新入生と個別でカウンセリングを行い、現在の問題点、重症度を確認して必要に応じてリコンディショニング方法を指導する。場合によっては、学内在中のスポーツドクターに医学的問題がないか確認していただいたり、より細かい評価が必要な者は再検査として後日相談を行う。最終的には新入生のスクリーニング結果や測定結果を各クラブの指導者やトレーナーにフィードバックし、新入生が医療機関との関わりが必要なのか、クラブ全体の練習に参加する前にリコンディショニングが必要なのかなど、新入生の現在のレベルに応じた対応ができるように努めている。

図1 スクリーニングテスト当日の風景

2)事前準備

 スクリーニングテスト全項目を学生トレーナーが分担して担当し、担当した測定項目の測定意義、方法、傷害との関係、リコンディショニング方法等を事前に勉強する。また、測定項目以外に当日のスクリーニングテストが効率よく実施できるために必要なマネジメント業務についても学生トレーナーが分担して担当する。例えば当日会場の確保や必要物品の個数の管理、問題が発生した場合の対応などである。そして、事前に全ての測定項目の方法をスーパーバイザー(本学教員、日本体育協会公認アスレティックトレーナー)や学生トレーナーなどスクリーニングテストに携わる者で全ての測定方法についてディスカッションし全体での共通認識を図る(図2)。

図2 全体での測定方法を確認している様子

3)活動当日

 約半日で600名もの新入生に対して30項目に及ぶスクリーニングテストを実施し、最終的に新入生一人一人に個別指導を行う。そのためには各測定項目の正確、且つ迅速な測定と的確な言葉がけが求められる。新入生が所持している各測定項目結果を記載する個表には代表的な問診内容が記載されており、該当するものには印をつけるようになっている。測定をする際には手術後であったり極端な可動域制限があったりする場合があるので、リスク管理として個表を確認し新入生に痛み等がないか確認しながら測定を実施している。そして、何か測定を実施して疑われる症状等があった場合には個表に測定者がそれを記載するようにしている。

図3 測定方法を新入生に説明している様子

4)反省点・改善点

 活動当日では約600名という大人数を時間内に実施するということで、測定の統一を図っているものの、疑われる測定数値が生じたり、ある測定項目によっては測定の順番待ちをする新入生の列ができてしまい、時間を超過してしまうことがみられた。また、測定前の痛みの有無などの確認に関する言葉がけがうまくできなかったせいか、必要以上に測定不可と判断してしまったケースも見られた。改善策としては、測定等の反復練習をし、測定時間の短縮と新入生に伝わる言葉かけを練習することが必要である。また、発生しうる問題点を予測し臨機応変に対応できるように努めること、すなわちリスク管理をすることが必要であると感じた。

5)教育的意義

 各測定項目を担当するにあたっては、測定に関係する機能解剖や、リコンディショニグ方法など、代表的な疾患に対する傷害予防についての必要な関連知識をスクリーニングテスト前に把握しておかなくてはならない。なぜならば、われわれは測定屋さんではなく、トレーナーだからである。トレーナーは選手を指導する立場であるため、各測定項目が何のための測定なのか、これが劣ると何に支障があるのかなどを選手に伝えられなくてはならない。また、スクリーニングテストを通して、代表的な傷害をスクリーニングするために最低限必要と思われる機能評価項目の知識を習得することで、トレーナーとして現場で迅速な機能評価ができるようになることも教育的意義の一つである。

 そして何よりもトレーナーは人対人のやりとりが求められることなので、机上では得ることができない人とのやりとり、すなわち実地訓練ができ、トレーナーとして必要なコミュニケーション能力を養うことができると考える。
(報告者:笠原政志)

3−2.高校生を対象とした整形外科的メディカルチェック

1)活動概要

 国際武道大学トレーナーチームは、3年前より神奈川県川崎市立橘高等学校スポーツ科の新入生に対し、スポーツ傷害の予防を目的に、整形外科的メディカルチェック(以下M.C)を実施している。この活動は、スポーツ科の新入生に対し、部活動が本格的に始まる前に、自分の身体機能に関する情報を得て、スポーツ傷害に関する知識を学び自分自身でコンディショニングを行うことができるような自己管理能力を養う機会を得る事をコンセプトとして継続的に行ってきた。また、一度きりの測定で終わらせるのではなく、その後の状態や意識変化を確認する意味を踏まえ、追跡調査として2年生を対象に1年半の期間を空け10月に再試行している。対象となる生徒は毎年約39名で、すべての生徒が何らかの部活動を行っており、バレー部、剣道部やその他多数のクラブは毎年全国大会に出場するほどの高いレベルであり、チームでも中心的な選手となる可能性が大きい。

 具体的な内容は、国際武道大学の新入生に対して行っている測定項目と同一の方法で身体機能を評価し、その評価から問題点をスクリーニングし改善点を指導している(図4)。そして、M.C後には、スポーツ傷害の発生しやすい代表的な4部位(肩、腰、膝、足関節)のコンディショニングセミナーを実施し、よりわかり易く噛み砕いたコンディショニングの指導を行っている。そして、このM.Cに携わる学生トレーナーは、約30名で、事前準備から実際の測定、そして測定結果を分析し解りやすく生徒に説明するフィードバックまで携わっている。この行事を通じて学生トレーナーがどのような学習や経験を得ているのかをトレーナー教育という観点から報告する。

図4 M.C.の流れ

2)事前準備

 事前の準備としてまず始めに、その活動に対して目的確認をしなければならない。今回は目的として、スポーツ傷害の予防が挙げられるが、依頼先、トレーナーチーム、各個人の目的を明確にすることで、その後のプランや意思決定の際に戸惑うことが少なくなる。

 次に、活動を進める上で各トレーナーが役割を明確にし、当日の測定・評価が効率よく行えるように事前に十分な検討を行う。M.C.の場合、大きく行事を円滑に進めるマネージメントとしての役割と、実際に対象者を評価し、コンディショニング指導を行う実務の2つに分けられる。特に4年生は、それぞれが中心的な役割を務め、責任を持ちその行事に携わる。

 運営の役割として、組織図(図5)のように学生リーダー・副リーダーが中心となり、全体の総括を担う。そして、各役割が分担され、それぞれの部門で準備を進めていく。今回の場合、大きく学生リーダー、物品係、会計係、資料作成係に分けられる。

図5 活動組織図

 学生リーダーは、学生の統括として、スーパーバイザーから指示を仰ぎ、各係に情報を伝達することや、外部との窓口になり、スケジュールや測定のプランの確認を行ったり、各係の作業進行状況を把握し、必要に応じてアドバイスを行うなど幅広い視野で全体を見渡し、活動を効率よく進める中心的な存在となる。

 物品係では、M.C.において何をどの程度使用するか、機器の故障が生じた場合どのように対処すればよいかあらかじめ確認しておく。また、リスク管理からも測定中の事故に対応するための応急処置キットも必需品であることを忘れてはならない。このような活動を通じて自分の担当測定項目以外の物品の使用方法や故障した場合の対処法を知る機会となる。

 会計係では、行事の準備からフィードバック、データの郵送までにかかる費用の管理を行う。特に、物品係と連携をとり、事前に購入するものがあればあらかじめ予算を見積もる。金銭の流れや、先を見通した計画性を学ぶことが出来る。

 資料作成係は、M.C.当日にデータを記入する個人票や、生徒が理解しやすく、また対称の特性を考慮した参考資料の作成を担う。目的に応じて、いかに機能的なフォーマットを作成するか、どうしたら対象者が内容を理解し、自宅に持ち帰っても再度見たくなるような資料を作成できるか、そのノウハウを学ぶ。アドバイスの資料を作成する場合、例えば腰痛なら、その解剖や評価、改善方法などを解りやすく伝える為に、多数の参考文献に目を通し解りやすい表現方法や見やすい図や写真を探すことで、情報収集する能力や、それを加工する応用力も養うことができる。

 そして、上級生に至っては上気した業務的な活動の中にも、その活動を通じてチーム内のコミュニケーション方法や下級生への指導をする機会を得ることが出来る。M.C.に携わる学生スタッフは総勢30名であり、先に述べたように役割が分担化されているため、お互いの活動内容の把握が必要となる。そこで個々がどのように全体の進行状況を確認し、あるいはお互いの役割に指摘や意見をできるかが、運営全体の効率的な進行と、より積極的且つ発展的な活動になるかに影響してくると考えられる。そのためにも、4年生を中心に各項目リーダー間の連絡を密にし、活動や意見に偏りが生じないようリーダーは把握する必要がある。このような活動を通じて組織の出の動き方や、コミュニケーション能力が養うことができると思われる。

 また次回行うことも踏まえ、下級生への引き継ぎも同時に考える必要がある。下級生に対して、ただアシスタントとして消極的に関わらせるのではなく、リーダーとして考慮しなくてはならない事、先を見据えた行動や全体への配慮などを様々な作業を通して伝えていかなければならない。

 また学生リーダーは、実際に行うM.C.に関する事前勉強会の企画も同時に行う。たとえば、図6の流れに従って順に、成長期スポーツ傷害の特徴と改善方法、測定項目の練習及び測定方法の再確認、問診と評価の仕方を含むフィードバックの方法、そしてコンディショニングセミナーのリハーサルをスーパーバイザーから、講義を受け、実際にシミュレートする。例えば、いままでの蓄積したスポーツ傷害調査から、傾向として足関節の捻挫が多いという情報があれば、その予防に対するアドバイスについて事前に準備をすることができる。また、慢性傷害として、シンスプリントやオスグットシュラッテル病、腰痛などの発生件数が多く、成長期の過度な運動刺激に起因することが原因として考えられるので、その発生メカニズムや具体的な改善方法としてのアイシングやストレッチング、筋力トレーニング方法の確認をすることができる。

図6 事前勉強会の流れ

 M.C.後には生徒一人一人に対し、その場でのデータフィードバックと問診、そして傷害予防に関するコンディショニング指導を行う回収を行うが、測定データと問診からどのような傷害に繋がる可能性があるか、あらかじめスーパーバイザーに指導を受け、実際にいくつかの奨励をあげ、シミュレートを行う。一つのデータを生徒の発する一言からできるだけリスクを考え出し、より起こりうる傷害に対しアドバイスをできるようなイメージ作るよう勉強会に参加する。

図7 回収風景

3) M.C.当日と報告書の作成

 M.C.の当日は、実際に高校生を評価し、起こり得る生涯のリスクを分析、予防のためのアドバイスを行う。実際に生徒に接することでわかる評価の正確性や自分の知識が現在どの程度養われているのか実感できる最高の場となる。実際に問診や評価の測定を見てみると、ケガの既往がない生徒は非常に少なく、複数の障害を抱えている選手が少なくないことに気づかされる。情報量が多くなると、どこに焦点を絞るべきか悩まされることになるが、生徒のおかれている社会的環境や重傷度を考慮し優先順位を決め対応することが望ましい。なぜなら、多くのことを望むとかえって生徒が困惑してしまい、結果的に良いアドバイスに繋がらないからである。

 全ての評価とアドバイスを終えたら、測定結果のデータ整理と分析を行う。特に新入生の身体的特徴がどうであるか、測定結果から陽性数が多い項目は何か、ケガとの関連性はどうであるかデータをグラフ化し傾向を分析する。そして、データを積み重ねることで成長期における傷害予防の為のコンディショニング方法を確立していくことができる。

 また次回行う際、円滑にM.C.を進行できるようにするために、事前準備からデータ整理まで活動の一部始終を報告書という形にして残すことが重要になる。準備段階からの使用した資料や、企画、運営までの流れ、活動中にかかった経費など細かく記録しておくことで、次に行うときに順便に費やす時間を削減でき、さらに充実した内容や新たな試みに費やせる時間が得られることに繋がる。報告書としては、第三者が読んでもおおむね一部始終理解できるよう説明付けをし、作成することを考慮しなければならない。誰が読んでも内容の理解が得られるような資料を作成することは、いかに情報を伝達できるかという表現力に繋がる為、最後の報告書作成は十分なスーパーバイザーの指導を受け進めていくことが必要となる。

図8 コンディショニングセミナー風景

4)反省・改善点

 運営面では、当日の進行が悪い場合、人の流れを修正したり、測定者が十分足りている場合他の項目の補助にまわしたりと、柔軟な対応が必要である。しかしながら、ひとつの測定項目のみ練習をしているだけでは、測定の正確性が劣り、十分な対応とは言えない。日ごろから、M.C.の項目すべてを自信を持って評価できるように練習をしておく必要がある。

 また、当日の生徒に対する対応では、対象が高校生ということもあり、どうしてもフランク(友達感覚)になりすぎてしまうところもみられる。指導という立場を踏まえ、信頼できる存在になることが前提であり、身なりや言葉遣い、挨拶はもちろん測定の説明やコンディショニング指導をする際、自信を持った態度で行うことが必要である。そのためにも、事前の勉強会で十分情報を得ておくことが望ましい。

5)まとめ

 普段授業や個々の活動現場のみにとらわれず、このようなイベント活動を通じて、様々な対象に接することで、知識の再確認や新しい発見に繋がる。特に、高校生の生活習慣や身体に対する知識、身体的特徴を知り、より傷害予防に繋がるようなコンディショニングの指導を学んでもらいたい。

 また、マネージメントとしての立場として携わる事で、幅広い視野でチームがどのように動いているか、外部との交渉や接する時の礼儀など社会性を養う機会として活用することが出来るため、学生トレーナーにとっては非常に恵まれた環境で学ぶことができるということを再確認してもらいたい。
(報告者:太田 千尋)

3−3.社会人バレーポールチーム体力測定

1)活動概要

 2004年5月23日(日)に本学付属施設である武道・スポーツ研究所にてFC東京バレーボール部の体力測定を行った。FC東京バレーボール部には、本学トレーナーチーム出身の卒業生がトレーナーとして帯同しており今回測定の依頼を受けた。

 当チームの体力測定は、今回で3回目の実施となる。当社会人バレーボールチームの属するV1リーグは、Vリーグに次ぐ国内で2番目の社会人リーグにあたり、8チームで構成されている。毎年1月から3月にかけて全国各地を転戦、2回戦総当り制(14試合)で優勝を争っており、V1リーグで優勝を果たしている(2004年現在)。このようなチチームをVリーグ昇格に近づけるために、トレーナーからは傷害予防と競技力向上の観点からのアプローチとしてこの体力測定を依頼され、本学トレーナーチームがサポートスタッフとなり協力することとなった。今回サポートスタッフとして学生トレーナーは32名であり、13名の選手の測定に協力した。

2)事前準備

 今回体力測定を依頼されたチーム専属トレーナーから、事前にバレーボールの競技特性やチーム状況を踏まえたレクチャーをしていただいた(図9)。測定の目的としては、@前回測定データとの比較からトレーニングの効果の把握、A選手のコンディション把握の2つを大きく掲げて事前準備を行った。

図9 チーム専属トレーナーによる事前講習

 また、事前準備を円滑に且つ正確に進めるためにリーダーを配置し、測定員である学生はマネージメントスタッフとして、必要物品の在庫チェックから確保・補充までを行う「物品係」、練習・当日の測定場所の確保などを行う「総務係」、今後同様の測定方法で行えるように、測定方法の手順・注意点を紙面に残しておく、または当日の測定データの記載、入力のフォーマットを作成する「フォーマット係」の3つに役割分担を行った。

3)活動当日

 測定当日は、身体組成、四肢の周径囲を測定後、研究室での等速性筋力測定、体育館でのフィールドテスト、およびウエイトトレーニング場での筋力テスト(1RMテスト)を各3会場で行っていたため、選手を3グループに分けローテーションを組み、短時間に多数を測定できるようなシステムを用いて測定した。また、測定員の人数が余るようであれば、測定と同時に測定から得たデータをデータ管理ソフトに打ち込む作業を行った。

 体力測定のデータを迅速にフィードバックすることは非常に重要なことである。測定しただけで満足してしまい、取ったデータの見方がわからないような体力測定のケースをよく耳にする。できるだけ、早期に選手または、チームヘデータを提示することも重要なトレーナーの役割である。

図10 フィールドテスト風景

4)反省点・問題点

 今回参加した学生の反省、感想には、「事前に測定の意義を把握し、方法などをもっと練習しておく必要があった」、または「選手となかなかコミュニケーションが取れなかった」など、測定の精度や時間短縮のための工夫をする必要性を感じたようだった。また、机上の勉強では学ぶことのできない、トップアスリートと関わることや選手とのコミュニケーションは実践的であり貴重な経験をしたようであった。

5)教育的意義

 この体力測定をサポートするために、本学トレーナーチームの有志32名が事前準備から当日の測定員、さらにはデータ入力まで行った。この測定当日を迎えるまでに、先方のチーム専属トレーナーとの意見交換やレクチャーの依頼、測定方法の検討や練習、タイムスケジュールの調節など、当日選手が安全に旦つ円滑に測定ができるようなマネージメント能力を養ういい機会であったのではないか。さらに既存の測定項目ではなく、競技特性を踏まえた測定項目の吟味をすることで、より競技選手に必要とされる体力要素を見つめ直すための有意義な時間となったのではないかと考える。
(報告者 岩垣 光洋)

4.まとめ

 本プロジェクト研究の2004年度は「アスリートの体力測定を通じた傷害予防とリコンディショニングへのアプローチ」と題し、特にスポーツ選手の体力測定や機能評価をトレーナーとして担当して行った医科学サポート活動の実践的な事例についてまとめた。

 スポーツ選手のコンディショニングを行う上で、運動機能の評価はトレーナーの重要な仕事の一つである。たとえば、体力測定は身体資源のコンディションを評価することであり、選手の身体を様々な角度から精密に観察することで、その選手自身の身体資源の長所・短所が明確になり、選手の特徴やトレーニングの課題を見つけ出す材料になりうる。体力測定を中心とした運動機能の評価は、フィードバックを効果的に行えば、選手の自己管理への意識を高めるための材料として、測定の結果は大きな役割を黒たす。具体的な目標や課題を示してやることで選手のモチベーションは数倍にもなりうる。学生トレーナーの教育として重要なのは、測定実施前後の活動である。競技力向上、あるいはスポーツ傷害の予防を目的とした測定評価を行う際には、多くのスポーツ医学的知識を把握しておかねばならない。すなわち、測定項目を選択するには目的に応じてその競技の運動特性や、よく発生する傷書とその要因となる要素などを知っておく必要がある。また、測定の結果をフィードバックする際には、選手やコーチに分かり易く噛み砕いて教える必要があるため、その科学的裏付けを十分に理解していなければならない。測定後のフィードバックの際にはデータの説明だけでな<、選手が測定結果に基づいて行動を起こせるように、対応策としての具体的なトレーニング方法や傷害予防の方法をアドバイスしていく必要がある。当然トレーニング理論、傷害予防法を踏まえてメニューを処方していかねばならない。ウィークポイントやその強化の必要性などを、測定データを材料として選手に教育するわけである。測定結果を選手の傷害予防のためのコンディショニングに役立てるのなら、測定後には一刻も早く現場に結果をフィードバックすることが重要なので、効率よくデータを処理する能力も必要となる。いかに時間内に劾率よく測定し、データ処理するか、どのようにして選手に結果を伝えるか、あるいはスタッフ同士の協力体制への配慮など、コーディネートする能力も養われる。単なるデータ取りでなく、選手のための、現場に密接な体力測定を行おうとするならば、これらの過程はトレーナーにとって絶好の勉強の機会であるといえよう。これらの活動は、学生トレーナーの教育の場として有意義であるだけでなく、積極的な学外アスリートのサポート活動の推進は社会貢献としても大きな意義を持つと思われた。

<参考文献>

1)山本利春:国際武道大学スポーツトレーナー学科におけるトレーナー教育.体育の科学,54(4):287-293,2004.
2)山本利春:トレーナーの役割と課題-体育系大学におけるトレーナー活動-.Jpn. J.Sports Sci.,13(3):351-361,1994.
3)山本利春ら:スポーツ現場におけるスポーツ医科学サポート活動を通じたトレーナー教育の実践報告〜競技会における救護活動と傷害予防教育の実践〜.武道・スポーツ科学研究所年報9:123-133,2004.
4)山本利春ら:国際武道大学におけるアスレティックトレーナー教育.国武大紀要20:63-73,2004.