ご注意ください。
内容は、掲載当時(2004年)のものであり、現在の状況とは異なる場合もありますので、あらかじめご了承ください。

・山本利春、安ヶ平浩、岩垣光洋、加藤義明、中野江利子、太田千尋、笠原政志、佐藤洋二郎、北崎雅代、黒柳真吾:スポーツ現場におけるスポーツ医科学サポート活動を通じたトレーナー教育の実践報告(1)〜競技会における救護活動と傷害予防教育の実践〜、平成15年度 武道・スポーツ科学研究所年報第9号:123−133、2004.

スポーツ現場におけるスポーツ医科学サポート活動を 通じたトレーナー教育の実践報告(1)
〜競技会における救護活動と傷害予防教育の実践〜

研究代表者 山本利春(国際武道大学)
共同研究者 安ヶ平浩(国際武道大学)、岩垣光洋、加藤義明、中野江利子、太田千尋、笠原政志、佐藤洋二郎(国際武道大学大学院)、北崎雅代、黒柳真吾(国際武道大学研究生)

1.はじめに

 スポーツ選手が最高のパフォーマンスを発揮するためには、選手の体力や技術をよりいっそう高め、外傷・障害・疾病などに伴う影響をより少なくするためのコンディショニングが必要である。近年、それらのアプローチを実施するための医・科学サポートが重要視されており、その役割を果たす専門家としてアスレティックトレーナーの存在が注目されている。本学においてもその社会的なニーズに対応し、国内では初のスポーツトレーナー学科を開設した。本学のような体育系大学が医療系あるいはフィットネス系の専門学校に比べてアスレティックトレーナーの教育に適していると考えられる理由は、スポーツ現場での実践的な活動を通じての臨床的経験を積みながらの実地教育ができることである。

 米国におけるトレーナー教育を例にとってみても、その教育内容の中心はスポーツ現場における実践的な知識と技術の習得、そして経験である。したがって、アスレティックトレーナーを目指すならば、医療専門学校や各省認定の講習会では不十分で、スポーツ現場を持ち、スポーツ医・科学的なカリキュラムが充実している体育系大学で、経験を積んだトレーナーが教員として存在する教育現場が望ましいと思われる。

 本研究では、そのようなトレーナー活動を通じた「トレーナー教育」の意義を本学の学生トレーナー教育における実践報告をもとに立証し、今後のトレーナー教育のあり方を方向づける資料を得ることを目的とする。また、本学のスポーツトレーナー学科の教育コンセプトの裏付けとなる資料を得ることが出来ると考える。

2.トレーナーステーション活動を通じた学生トレーナーの実践的教育

 競技会時にトレーナーが常駐して、大会参加選手のコンディショニングや応急処置、テーピングなどを行う場所をトレーナーステーションと呼んでいる。従来、競技会における選手のコンディショニング・サポートは、救護所を設置して応急処置のみを施したり、各チームの専属のトレーナーやコーチが所属選手のケアをしていることが通常であった。しかし、近年では参加するすべての選手が、応急処置はもちろん、その後のリハビリテーションに関するアドバイスを受けたり、傷害予防やケアについての相談の出来る、コンディショニングのサービス・ステーション的役割を持ったトレーナーステーションの存在が望まれるようになり、選手へのコンディショニングの提供を行うことが可能となった。

 本来は各チームに専属トレーナーが存在して選手のコンディショニングを行うことが望ましいが、トレーナーの普及がいまだ十分でない日本では、トレーナーのいないチームが多い。トレーナーステーションは、大会時に公平に参加選手をケア、指導できる公共のトレーナーを有する、公共のトレーナールームともいえよう。

 学生トレーナーの有志が集まり活動する本学トレーナーチームでは、各種競技会から依頼を受け、ボランティア的な活動の一環として、トレーナーステーション活動を実施してきた。トレーナーステーション活動を行うに当たり、学生トレーナーは対象となる選手の競技特性による傷害の特徴や起こりうる傷害の処置方法などについて入念な勉強会や使用物品の吟味、準備が必要となる。また、応急処置やテーピングなどの対処のみでなく、選手への教育を重要と考え、カウンセリングやアドバイスのための配布資料を作成したり、当日には必要に応じて専門医の紹介を行う。大会中および大会前後には、トレーナーとしての実践的な活動のみならず、選手や指導者とのコミュニケーション、大会運営側などとの渉外活動、活動報告の提出など、コンディショニングに関わる知識や社会環境的コーディネートにいたるまで、学生トレーナーは多くのことを学ぶことが可能になり、トレーナーステーション活動は学生トレーナーにとって有意義な教育媒体となると思われる。

 本年度プロジェクト研究では、特にアスレティックトレーナーの活動として代表的なスポーツ選手の競技活動中のスポーツ医科学サポートである、競技会時の救護、コンディショニング指導、傷害相談などの、いわゆるトレーナーステーション活動を実際に学生トレーナーが企画立案、運営などを担当した事例を報告し、それらの活動を通じた 教育的意義を考察、総括することにより、実践的・臨床的トレーナー教育の有効性の裏づけとなる資料を得ることを目的とした。

3.各種競技会におけるトレーナーステーション活動の事例

3−1.千葉県中学校陸上競技総合体育大会におけるトレーナーステーション活動

1)活動概要

 2003年7月27、28日に千葉県総合スポーツセンター東総競技場で行われた千葉県中学校陸上競技総合体育大会でトレーナーステーション活動を行った。活動を行うにあたり、まず学生トレーナーのリーダーが依頼者の要望を踏まえた上での活動目的を決定した。決定された活動目的は以下の通りである。  @傷害予防
 A選手の自己管理の啓蒙
 B的確で迅速な応急処置
 Cより高いパフォーマンスが発揮できるためのコンディショニング

 今大会では、学生トレーナー26名(大学院生3名、4年生7名、3年生3名、2年生9名、1年生4名)がその活動にあたった。

2)学生トレーナーの事前準備、事後報告に関連した活動

 今大会でトレーナーステーション活動をするにあたって、対象選手となる陸上競技の競技特性や陸上競技特有の傷害について、また当日行うであろう処置の方法について勉強会を行った。

 さらに、トレーナーステーション活動を行う上で必要と考えられる庶務をいくつかに分類し、事前準備から活動後の報告までを、それぞれのグループに分担して行った。具体的には、コンディショニングを指導する際に用いる配布資料を作成し、実際どのくらい使用したか、すなわち中学生にはどういった指導が必要であったかを集計するグループ。または活動を行う上で必要な物品、さらには必要量を吟味して準備し、実際どのくらい使用したかを集計するグループなどがあり、学生トレーナー一人一人がそれぞれの責務を果たした。


3)当日の活動概要

 今大会では、競技中のアクシデントに対応するために競技場内で待機するグループ、またそれ以外のアクシデントに対応するためにサブトラック内や競技場外を巡回するグループといったスタジアム救護班、さらにコンディショニングの指導や自己管理の啓蒙を行うトレーナーステーション班に分かれ、それぞれの役割を分担して活動にあたった。  スタジアム救護班の活動は、アクシデントが発生した選手の応急処置と医務室への運搬であった。スタジアム救護班が活動したアクシデントは、両日あわせて3件であった。 トレーナーステーションの活動は、選手の主訴に対する評価を行い、それに見合ったコンディショニング方法を指導することであった。具体的にはアイシングやストレッチ、テーピングや運動の指導などを行った。中には、医療機関の受信を勧めることもあった。トレーナーステーションの利用者は、両日合わせて117名であった。

4)学生トレーナーから報告された反省、感想、問題点

 今大会は対象の選手が中学生ということで、専門的な知識を分かりやすく指導することの難しさを感じたと言う声が多数聞かれた。しかし、その選手が理解してくれた時の喜びや達成感も非常に大きかったようである。次回このような機会があればぜひ参加したいと言う意見も多かった。

5)活動を通じての教育的意義

 トレーナーステーション活動を通して、自己の役割に責任をもって全うする事の重要さや、短い時間の中で信頼関係を生むためのコミュニケーション能力といった机上の勉強では学ぶことのできない多くの事を、自身の経験から学ぶことができたと思われる。今後、学生トレーナーが活動を通じて学んだ事を、様々な分野で生かしてくれることに期待する。  (報告者:中野江利子)

3‐2.東京都空手道選手権大会におけるトレーナーステーション活動

1)活動概要

 2003年8月17日に東京武道館で行われた第33回東京都空手道選手権大会、ならびに第17回東京都小・中学生空手道競技大会においてトレーナーステーション活動を行った。この大会は東京都の各地区予選を勝ち抜いた代表の大会であったため非常にハイレベルな大会になることが予想された。今回のトレーナーステーション活動に参加した学生トレーナーは4年生1名をリーダーとする計17名(大学院生2名、4年生4名、3年生3名、2年生4名、1年生4名)であった。学生トレーナーの参加基準として、健康管理室登録トレーナー講習会(救急法やテーピングなど現場でのトレーナー活動に必要な内容を4回に渡り受講する)を受講しており、さらにトレーナーチームにおける足・膝関節テーピング検定合格者、そして心肺蘇生法、日本赤十字社救急法救命員の資格を保有している者を優先的に選択した。

 空手道連盟として初めてトレーナーステーションを設置したいということから、@選手へのコンディショニング指導、A傷害予防、B応急処置、C選手教育の4点を活動目的とした。ただし、B応急処置に関しては、学生トレーナーとは別に救護班がついており各試合会場では救護班がすべて外傷・障害の処置を行うことになった。これは主催者側の要請で、医療資格等の問題で処置などに対しての責任が取れないなどの理由によるもので、試合後に負傷を訴えてきた選手に関しても、トレーナーステーションでは処置を行わず救護班に送る形式をとることになった。

2)学生トレーナーの事前準備に関連した活動

 トレーナーステーション活動を行うにあたり、使用する物品の準備、処置などに使用する記録シートやコンディショニング指導をする際の資料の作成、交通手段や諸経費など、仕事内容別にグループを振り分けて学生トレーナーは準備にあたった。また学生トレーナー側もはじめて空手道競技にトレーナーステーションを設置するということから、依頼人である本学OB(全日本空手道連盟医科学委員会委員)に、事前に空手道の競技特性やケガの発生メカニズムなどの講義をして頂いた。学生トレーナーは応急処置の方法として三角巾の使用方法など応急処置の勉強会を行った。

3)大会当日の活動概要

 会場は全8会場で試合が行われ、本部は国旗が掲揚されている壇上にあり、大会医師・救護班はその反対側に設置されていた。午前中は試合会場のすぐ隣にトレーナーステーションを設置し活動を行ったが、試合会場とトレーナーステーションの仕切りがなく、客席や他の試合会場からまる見えの場所だったため利用者が少なかった。そのため、午後からは会場の出入り口のフロアに移動し、活動を行った。これに加え、準備したコンディショニング指導のプリントを自由配布にしたことにより、多くの選手または小中学生の保護者に興味を抱いて頂き、利用者の増加に繋がった。トレーナーステーションの利用者は午前中が5名、午後が12名の計17名であった。

 会場巡回は上級生と下級生がバディを組みローテーションで活動を行った。また、午後からはトレーナーステーションが会場の外に移動したため、会場巡回や緊急の場合の処置が行えるように、救護ステーションとしていくつか物品を会場内に残しておいた。

4)学生トレーナーから報告された反省、感想、問題点

 空手道連盟、学生トレーナー共に空手道競技会での初めてのトレーナーステーション活動ということで、特に苦労したことがトレーナーステーションの設置場所であった。学生トレーナーからの反省点でも、特に選手は人目を気にすることが多く、そのことが利用者が少なかった原因であり、今後はステーションの設置場所を他の選手や役員に見られないよう、仕切りなどを設けるなど配慮が必要であるという意見が多数をしめた。またコンディショニング指導のプリントを自由配布にした事で多くの人に資料を持ち帰って頂けたものの、コンディショニングに興味があるが、どうしていいかわからないという選手や保護者の意見が聞かれたことから、トレーナーステーションでコンディショニング指導を行う必要性があることを十分に認識できた。

5)活動を通じての教育的意義

 今回活動に参加した学生トレーナーは空手道未経験者が多数をしめていたことから、競技特性や傷害発生機転のイメージがわかない学生トレーナーが大半であった。しかし空手道関係者に空手道についての講義をして頂いたことにより、競技特性や競技特有の傷害の発生メカニズムなどが理解できたため、その後の活動がスムーズにできた。これらの経験によって、学生トレーナーはトレーナー活動を行う上で、その競技特性を理解しておくことの重要性を身にしみて感じることができたのではないかと思う。 (報告者:加藤義明)

3‐3.若潮杯争奪武道大会トレーナーステーション

1)活動概要

 2003年12月26、27日に国際武道大学で行われた若潮杯争奪武道大会においてトレーナーステーション活動を行った。若潮杯争奪武道大会は、日本武道館と本学が主催となり全国各地の高校強豪チームが南総勝浦に集結し、師走の寒い中、柔道・剣道を2日間に分け熱戦が繰り広げられる大会であり、今年で20回を数える。今回は記念大会ということもあり、参加校は全国高校総合体育大会(インターハイ)で幾度と優勝しているチームや上位に食い込むチームなど含め、全80チーム総勢500名以上が参加する大規模な大会となった。このように参加人数も多くなる状況を踏まえ、本学体育館全面4、5分割して試合を行う形式を取っており、その一角に学生トレーナー約20名がトレーナーステーションを携え、選手へ応急処置およびコンディショニング指導を行った。

2)学生トレーナーの事前準備に関する活動

 今回の活動にあたり、@大会中に起こる障害発生を最小限に抑える、A高校生であるため、選手の身体に対する自己管理能力の教育を徹底する、の2点を活動の目的として掲げ、事前の入念な打ち合わせや勉強会を行った。とくに本大会で行われる柔道、剣道という競技特性や競技ルールを把握することは重要なことであり、発生率が高いと思われる外傷、障害の病態や評価方法を事前に勉強することで、より的確なコンディショニング指導を実施できるように心がけた。また、大会主催者である交際武道大学や柔道および剣道の大会関係者、さらには近隣の病院と密な連絡をとり、万一の大きな事故の場合に迅速に対応できるよう準備を進めた。

3)大会当日の活動概要

 大会当日の医科学サポート体制として、分割されている各試合会場とトレーナーステーションに学生トレーナーを配置した。試合会場では主に試合中の傷害発生に対する救護班として、大会ドクターが行なう応急処置のサポートをする役割として待機した。一方、トレーナーステーションでは、怪我の相談やテーピング、次の試合までのコンディショニング・ケアなどを主に実施した。本大会の開催時期は、各チームにとって合宿ラッシュの時期であり、この大会に参加する選手の多くは疲労状態であり、何らかの障害をかかえている者も多く、トレーナーステーションの利用頻度は極めて多かった。その背景として、特に柔道・剣道の稽古方法や指導方法において、スポーツ医科学の導入を積極的に取り入れる傾向が少ないことにあると思われる。そのため、選手が指導者に痛みを訴えることが困難となることから、適切な処置や休養をせずに無理をして練習を続け、重度の傷害を抱えてしまっている選手は少なくない。今回のトレーナーステーション活動において、学生トレーナーは、高校生という比較的早い年代の時期に、怪我を理由に競技を断念してしまうような選手ができるだけ少なくなるように、選手の今の状況を顧問の先生にわかりやすく説明する、いわゆるパイプ役のような役割を果たせたのではないだろうか。

4)学生トレーナーの反省、感想、問題点

 これらの活動を終えた学生トレーナーは、「事前に勉強したことが今回のような活動でそのまま活かすことができた」 「自分の苦手としている分野が明らかになった」など、自分の能力を再認識し、さらに不十分な点は今後の学内の活動でさらに勉強する必要性を感じたようだった。

5)活動を通じての教育的意義

 本活動で学生トレーナーは、競技選手だけでなく、顧問の先生や保護者の方々や開催担当者との接し方や説明の仕方など、いわゆるコミュニケーション能力を現場を通じて学ぶことができた。これらコミュニケーション能力は、トレーナーとして必要な能力としてだけでなく、人間形成においても重要な要素であるといえよう。また、今回対象となった高校生の選手たちのように、医科学的なサポートの必要性が高い現場と、実践的なトレーナー活動の実地訓練の経験を積むことが必要な学生トレーナーの両者は、そのニーズがかみ合い、需要と供給の関係が成立することから、本活動における教育的意義も大きいと思われる。 (報告者:岩垣光洋)

3‐4.全日本学生ライフセービング選手権大会におけるトレーナーステーション活動

1)活動概要

 2003年11日〜12日の2日間、千葉県御宿町の御宿中央海岸で行われた第18回全日本学生ライフセービング選手権大会においてトレーナーステーション活動を行なった。本大会は、特定非営利活動法人日本ライフセービング協会主催となり、大学、専門学校を中心として約1000名のライフセーバーが参加した公式ライフセービング競技会である。ライフセーバーは日頃からトレーニングをかかさず、救助に必要な体力や技術を磨いており、その成果を競い合うことでより救助力を高めていこうという趣旨で、本大会のようなライフセービング競技会が開催されている。

 活動の主な内容はトレーナーステーション設置と会場内の救護パトロールで、活動の目的は応急処置とし、状況に応じてコンディショニング指導(選手の自己管理能力の向上、傷害予防などに関連した指導)を行った。その活動目的を参加学生トレーナー全員が遂行するために、@学内テーピング検定「足関節」に合格していること、A心肺蘇生法関連のライセンスを所持していること、を参加条件に設けた。その条件を満たした上で参加の意志を示した、本学の大学院生1名、研究生1名、学部生13名で、それにライフセーバーである学生アドバイザー(研究生)1名を加えた計16名が、本大会のトレーナーステーション活動にあたった。

2)学生トレーナーの事前準備に関連した活動

 ライフセービングという特殊な競技特性から、競技が行われる環境や、起こりうる傷害についての勉強会を開催して知識を身につけた上で、処置方法のシミュレーションを行った(下記は一例)。
・競技が開催される海や砂浜の特徴について知る
・熱中症、やけど、くらげなど海の生物に刺された場合、釘や釣針を踏んだ場合などの処置方法
・パトロール中に傷病者を発見した場合の連絡経路や運搬方法
・心肺蘇生法が必要となった場合の対応

3)大会当日の活動概要

 トレーナーステーション、オーシャンパトロール、ビーチパトロールの3ステーション制を導入して、学生トレーナーはバディを組んで活動を行った。各ステーション間、大会ドクターや大会本部との連絡はトランシーバーを利用した。

 大会当日は両日とも大会ドクター1名(日本ライフセービング協会医科学委員長、救命救急専門医)とアスレティックトレーナー1名(日本ライフセービング協会理事、日本体育協会公認アスレティックトレーナーマスター)が会場内に待機しており、必要に応じて指示のもと処置を行ったり、判断を仰ぐなどした。

 2日間でのトレーナーステーション利用者総数は64名であった。内訳は、急性の外傷が21名、慢性の障害が35名となった。残り8名はアイシング用の氷を渡すのみなどで、ケアや処置は行っていない。一番多かった処置内容は、応急処置、ケアの両面から必要性がみられた「アイシング」だった。

症例1:ボードとの摩擦による擦過傷が化膿したもの→洗浄と砂の除去後、消毒・保護。医療機関


症例2:ドルフィンスルー時に海底で額を強打して受傷
→ドクターの指示により整形外科受診、縫合。翌日は防水フィルムを装着して競技(ラインスイムラン)に参加。見事優勝。


学生トレーナーによる傷害相談:
右肩前方亜脱臼の既往あり、テーピングを希望
→評価を行ない、肩甲骨外転制限のテーピングをしてレース出場。その後、トレーニング指導を行なう。


学生トレーナーによる応急処置:
ランスイムランのスタート時に足関節内反捻挫受傷
→RICE処置を繰り返して行い、翌日の決勝にはテーピングをして出場。

4)学生トレーナーから報告された反省、感想、問題点

 日常のケアを怠っていることから引き起こされたと想定できる傷害が数多くみられた。競技選手としてだけではなく、ライフセービングという競技特性もふまえた上で特に自己管理能力を身につけてもらいたいというトレーナーサイドの要望として、また、当初の活動目的である「コンディショニング指導」の面からも、応急処置やケアを望む選手に対して、積極的に指導を行えたという声が、担当トレーナーから多く聞かれた。

ドクターによる診断と応急手当の評価


アスレティックトレーナーによる評価

<問題点とその改善策の一例>
・開催関係者側が、日本協会事務局、大会実行委員会、会場担当の地域クラブなど複数であったため、緊急時の搬送先についてや、使用物品の確認等での連絡がとりづらく不備も多少あった。→次回からは改善できるように、連絡の担当者をしぼるようにお願いする。
・医療機関への搬送・紹介をして受診する場合には保険証が必要となるため、チームや選手に大会時に持参してくるように事前にインフォメーションをしていたが、選手全体には伝わっていなかった。また、鎮痛薬を求めてくる選手もいるため、常備薬等はチームや個人で準備してもらう。
→事前に各チームの代表者へインフォメーションしてもらう。

5)活動を通じての教育的意義

 競技会においてトレーナーステーション活動を行うにあたり、当日に適切な評価や処置を素早く行うために、様々なシミュレーションを繰り返したり、使用物品の使用方法を習得する。応急処置やテーピングなどの対処方法のみではなく、競技会以降でも選手自身が自己管理出来るように、教育的配慮としてコンディショニングシートを作成したり、競技会当日には必要に応じて専門医の紹介を行う。また、以上のような、トレーナーとしての実践的な知識や活動のみならず、初対面の選手や指導者に対するコミュニケーション能力、大会運営側との渉外活動やトレーナーステーションを取りまく環境に対してのコーディネート能力など、学生トレーナーは多くのことを学ぶことが可能になる。一学生、一トレーナーとしてだけではなく、学内の体験だけでは身につかない多くのことを学ぶ機会を得られたのではないかと思う。   (報告者:北崎雅代)

4.まとめ

 本プロジェクト研究の初年度である2003年度は、「競技会における救護活動と傷害予防教育の実践」と題し、特にアスレティックトレーナーの活動として代表的なスポーツ選手の競技活動中のスポーツ医科学サポートである競技会時の救護、コンディショニング指導、傷害相談などの、いわゆる競技会時のトレーナーステーション活動の企画、運営、報告を通じた実践教育の事例をまとめた。

 中学生における陸上競技大会、空手道・柔道・剣道およびライフセービングの大会時のトレーナーステーション活動を学生トレーナーの企画・運営で行い、選手の教育や事故防止において多大な成果を得た。学生トレーナーの教育としての成果もさることながら社会貢献としての意義も大きいと思われた内容であった。

 トレーナーステーション活動は、競技会における選手の医科学サポートを実践・支援する有効なシステムであるが、そのマンパワーの確保やシステムづくりが困難であった。しかし、その活動を学生トレーナーの教育の場としてリンクすることで、スポーツ選手のコンディショニングをボランティア的にサポートすることが可能となり、トレーナー教育としても有意義な場となると思われた。

文献

1) 山本利春:国際武道大学におけるトレーナー教育.体育の科学,54(4):287-293,2004.
2) 山本利春:トレーナーの役割と課題−体育系大学におけるトレーナー活動−.Jpn. J.Sports Sci.,13 (3):351-361,1994.