ご注意ください。
内容は、掲載当時(1991年)のものであり、現在の状況とは異なる場合もありますので、あらかじめご了承ください。

・鹿倉二郎、山本利春:テーピングを考える,月刊トレーニング・ジャーナル, 14(3):18‐25,1992.

対談・現場的好奇心 6

テーピングを考える

ゲスト/鹿倉二郎(ソニー企業(株)アスレチックトレーニング研究所所長)
聞き手/山本利春(国際武道大学体育学部助手)

本誌の読者でテーピングを知らない人はいないと思う。巻いた経験、巻かれた経験はなくても、テーピングとはどんなものか、おばろげながらでもイメージできるだろう。でも本来は何のために巻くのか? そんな根本的な問題にも触れる今回の対談です。

しかくら・じろう
1950年、東京都生まれ。早稲田大学社会科学部卒業。米国ミシガン大学教育学部体育学科卒業。1977年よりソニー企業(株)勤務。現在、同社フィットネス事業部アスレチックトレーニング研究所所長。日本人最初のNATA公認トレーナー。著書に『テーピング』(講談社)など。

やまもと・としはる
1961年生まれ。順天堂大学体育学部卒業、同大学大学院修士課程終了。現在、国際武道大学体育学部助手(スポーツ医学)。自身、トレーナーとして活動するほか、トレーナー的な知識・技術の普及に努める。


1991年11月28日、東京都渋谷区・ソニー企業(株)フィットネスクラブ“セイファー”にて収録。

〔対談の前に〕

 日本にテーピングの技術が渡ってきて久しい。トレーナーのイメージは? と聞かれれば、テーピングを巻く姿だと答える人も多いのではないか。それくらい日本ではテーピングがトレーナー的仕事の1つとして広く認識されている。トレーナーの中には、まずテーピングを覚えることから始めた、という人も多いと思う。しかし、反面ブームにあおられすぎている感もあり、正しい認識に基づいて利用しているか疑問が持たれることも多い。ややもすればその認識不足から、テーピングの効用について誤解や過大評価してしまい、テーピングによる弊害さえ生じることもある。

 今回は日本人として初めてNATA公認アスレティック・トレーナーとなり、日本でテーピンクの普及に努めた第一人者である鹿倉氏をゲストに迎え、テーピングの正しい使われ方を妨げているものは何なのか、などについてご意見を伺うことにした(山本)。

テーピングはどこまで普及したか

山本:テーピングが日本に渡ってきて随分経ちましたね。10年近くですか?

鹿倉:15年くらいです。

山本:15年の間に、何度となく講習会が開かれたり、あるいは現場で実際に使われたりして、かなり普及はしてきたと思うのですが、その反面どの程度まで正しく理解されて用いられているのか。特に底辺層が、どの程度まで理解しているかというところが気になるんですが、講習会活動が多分、日本で一番多い鹿倉さんのこ意見を聞かせて下さい。

鹿倉:僕が実際にやり始めたのは1977年からですから14年ですか。始めた頃はゼロに近いので、かなり普及はしたと思います。ただし、どの程度まで理解されているかというと、これは難しい。中学生くらいだとやはり不安です。実際に中学生が巻いているところを見たことがないのでわからないのですが、いろんなお医者さんたちに聞くと、かなりいい加減にやっている部分もあるようです。これは難しいですけれどしょうがないところもあると思いますね。講習会には高校生も参加しますけれど、全体的には少ないですからね、無料で受けられるわけではないので……。

山本:1回あるいは2〜3回の講習会で、確実に習得されているかというと、それはかなり疑わしいと思う。一度ノウハウを覚えて、その後現場で実地訓練的な形で反復練習をして、身につけていく類のものだと思います。

鹿倉:そうですね。その点は、講習会でも最後に必ず言うようにしています。うちの会社でやっている2日間のワークショップはしっかり全身的にやるんですが、2日間で覚えられるのは基本的なことだけなので、現場で行って選手がテーピングの具合が悪いと言えば、そのテーピングはよくない。現場で経験を積んでしっかり覚えるというのが理想的なわけです。ところがいろんな事情でそうそうテーピングができないなどの理由で、せっかく覚えたものでもその後現場で使っていかないので、なかなかしっかりしたテーピングが身につかない人も結構いますね。

山本:仮に講習会を受けたとしても、巻き方のノウハウ、例えば巻く方向とか、仕上がりの形などはある程度理解できると思いますが、どういう目的で行われるのかという根本的なところの習得は難しいですね。講習会では取り上げられるのでしょうが、いわゆる機能解剖ですね、靭帯はどこがどこにくっついていて、それぞれの部位はどういう動きをするかということが、なかなか短期間では学び切れないところがあると思う。そうすると現場で応用が利かない、というところがテーピングで一番の問題になっているのではないかなという気がします。

鹿倉:そうでしょうね。いつも「テーピングは難しいですね」と言われるんですが、僕らからすると、テーピングそのものは簡単なんです。選手に巻いて運動させてみて、ここがこうで、あそこがこうだと言われて、それをちょっとずつ変えながら何回も何回もやっていけば、誰でもちゃんと巻けるようになるんです。ですからテーピングそのものは非常に簡単に習得できる。
 僕はいつも言うんですが、本当はそうじゃなくて、どういうケガが起こっているのかとか、こういうケガにはこういう方法でテーピングをするとか、このケガにはテーピングはできないとかいう、そういう判断をするためのいろんな知識がなかなか広まっていかない。本を読めば全部出ているのですが、なかなか読もうとしないし、理解しようとしない人が、まだ結構いると思うんです。ただテーピングというのはどうしても、恰好よく巻くことがやはり先に立ってしまうので、それさえできればすべて終わるという感じのところがあります。

テーピングは万能ではない

山本:以前にこんな例を見たことがあります。インターハイの会場での話なんですが、高校の先生が講習会に出たり、本を参考にしたりして練習したらしく、素晴らしくきれいで、シワひとつ寄っていないテーピングをしていた。でもよくよく調べてみると、足関節の内側を傷めているのに、外側を傷めたときのテーピングをしていたんです。本などに例として取り上げられている巻き方をワンパターンで行っていたために、全く逆の方向で巻いているんです。シワもなく、きれいなのですが、巻く方向が逆なので、捻挫を予防するテーピングではなくて、捻挫をしやすいテーピングになってしまっている。それがいい例で、見よう見まねでワンパターンでしかできない、応用が利かない、根本的なテーピングの目的がしっかり把握できていない、というケースは多いのではないかと思います。

鹿倉:そうですね。実際には講習会ではそういうところに触れられていると思うし、本でもやはり書いてある本が多いと思います。ただ、こういうノウハウは往々にして幾つかのパターンを紹介しても強烈に覚えているのは1個で、そういうものがどんどん走っていってしまう。これはいろいろなノウハウを指導している人は誰でも感じることだと思います。テーピングに限ったことではなく、ウェイト・トレーニングなどでも同じ面はあるでしょう。それは仕方ないとは言ってはいけないので、どんどん教育していかなくてはいけないと思います。

山本:テーピングがすべてに適応するわけではなくて、中にはテーピングをあえてしないほうが好ましいような例もありますね。例えば、膝でも内側側副靭帯損傷に対するテーピングは比較的よく用いられていますけれど、膝蓋大腿関節障害、つまりお皿の裏と大腿骨が擦れ合って痛むような、よくランナーに多い障害がありますね。ああいう障害などの場合には、ただ痛いからテープを巻くという考え方だと、お皿を圧迫して大腿骨のほうに押し付けますから、逆に痛みが強くなるケースがある。「膝といったらこれ」という覚え方だと、危険なわけです。

鹿倉:本には「このテーピングは内側の靭帯のものですよ」と書いてあっても、見る人が見ると単に「膝のテーピング」なんですよ。最近は随分減りましたけれど、講習会でよく「膝に水が溜まっているのですが、テーピングできますか?」と聞かれました。そういうとき僕が必ず言うのは「水が溜まる原因はいっぱいあるから、何が原因かというところを、もうちょっとお医者さんに診てもらいなさい」ということです。
 ちょっと偉そうな言い方になりますが、テーピングが日本に入ってきてスポーツ選手がお医者さんのところへ行く回数は増えたと思います。スポーツ医学をやっているドクターはそれ以前も沢山いましたけれど、やはり運動選手とのギャップが大きかった。ところが、選手のほうがテーピングをするようになって、ケガのことをより考えてドクターのところへ行き始めた。

山本:それは確かにありますね。でも逆に、そんな考え方ができなかった現場のトレーナーもいると思います。というのは、治療も診断もできないトレーナーが、テーピングという1つの武器を抱え込むと、必要以上にそれを使って選手に対応しようとする。選手から相談を受けますと、じゃテーピングを試してみようとか、何でもかんでもテーピングで解決しようとする。マッサージでもそうですけれど、そういうものを使って選手のニーズに応えてしまおうという風潮も少なくない。だから「ドクターに引き渡そう、引き渡さなければ」と考える以前にまずテーピングで試してみようという危険な部分があったと思う。
 僕らが武道大学でトレーナー活動をやり始めるときは、非常に慎重に取り組みました。これは黄川先生(注/黄川昭雄氏。当時国際武道大学助教授、現在順天堂大学助教授)の強い意見があったのですが、「選手がテーピングを巻いて下さいと言って来たからといって、むやみに巻くな。巻いてよいかどうかの判断はお前らにはできないんだ」というくらい強く言われた。かなり極端ですけれど、1つの意識付けとしてはよかったのではないかと思っています。足関節に関してはだいたいどういうケガなのか理解できますけれど、膝や肘、肩などに関しては複雑ですから、テーピングを巻いて下さいと来た学生には必ず「病院へ行ったのか?」、あるいは「ドクターにはどう言われているか」とまず聞き、テーピングが適しているかどうかを本人と話し合いながらやる。テーピングをやるまでの過程が選手にしてみればまどろっこしいかもしれないが、その過程は大事だということで、すぐには巻かないようにしています。

テーピングの本来的役割

TJ:ここで1つ確認しておきたいんですが、テーピングはどんな目的で行われているんですか。

鹿倉:日本では、足首を捻挫したからその後の保護、というのがほとんどです。90%以上と言っていいでしよう。ですから高校生が高校生に巻いている場合などは本来の目的としていくつかあるうち、「予防」というのはお金の問題からまず無理ですね。それから「応急処置」というのは現実的には浸透していない。大学生レベルでもほとんど同じ状況でしょう。ところが社会人になると専属のトレーナーが雇われているチームも多いから、そういうチームでは予防でも使うし、応急処置でも使うし、再発予防でも使う。

山本:「テーピングを使って治す」とか、あるいは「テーピングでもやっておけ」といった言葉が、高校の先生や、大学のクラブの先生方から結構出るんです。ということはやはり、テーピングをすることによって最終段階のところまで持っていけるのではないかと過信があるような気がします。ですからケガをした後のリハビリテーションのところをもう少し組み合わせた形で、普及させていく必要があるのではないかと考えています。

鹿倉:講習会で再発予防のテーピングの説明をするときには、「ケガをしたらまず、応急処置をして、お医者さんにケガの種類・程度を診てもらって、治療して、リハビリテーションをして、そのリハビリテーションの中で、例えばランニングなどを再開するときに、そこからテーピングが始まるんだ」という言い方をする。そう言ってきて最後に一言、「日本ではリハビリテーションができる所がなかなかないんですよね」と言わざるを得ないところが辛い(笑)。

山本:例えば足関節に関して言えば、地道なトレーニングなのでやりずらいかもしれないですが、タオルギャザーですとか、チューブを使ってのトレーニング、抵抗運動、そういったものは自分でもできる。器具がなくてもできるわけです。ただし以前大学で、リハビリに関するアンケートを取った結果によると、応急処置はした。テーピングなどを用いて徐々にジョギング等に方向付けをした。ところがその後がプッツリ切れていて、補強運動は一切していないという人間がほとんどなんですね。ですから、自分1人でも十分できる範疇のものさえもやはり抜けているわけです。

鹿倉:トレーナーがいなくて、リハビリをみる人が誰もいない状態で、「これをやっておきなさい」と言っても、はっきり言ってほとんどの人はやらない。なぜかというと、非常につまらない運動ですから。例えばタオルギャザー。いいかもしれないけれど、片方で他の選手がバスケットボールをやっているのを見ながら1人でやるというのは、面白くないのでなかなかやってくれない。たとえやっても長続きしない。1週間もやったら飽きちゃいます。ですからそれを指導できる人間を作っていかない限り、本当の意味でのテーピングの効果は引き出せない感じがしますね。
 リハビリテーションというのは本当につまらないし、長くかかる。例えば中程度の肉離れなんかしたら1週間から2週間安静にして1力月近くじっくりやっていかなければいけない。やることは軽いストレッチから始まってアイソメトリックみたいな運動から徐々に動きのある運動にしていって、1カ月もしくは1カ月半、場合によっては2カ月くらいそれをやっていかなければいけない。そうするとそんなに待ってられないということで、そこに何があるかというと、テーピングがあるわけですよ(笑)。本来は待ってテーピングをしなければならないのに、待たずにバーンと飛ばしていきなり巻いてしまう。

山本:それが再発を増やしている1つの原因になってるんですね。

鹿倉:そう思います。

山本:あくまでテーピングは外からの補強ですからね。靭帯とか筋肉の外に皮膚があって、その上からの補強ですから、いわゆる自分自身を鍛える、内からの補強をしっかりしないと、完治には結びつかない。

鹿倉:ただ、テーピングが入ってきた1975年、さらに僕がテーピングの講習会を始めた1977年頃は、はっきり言って運動選手がリハビリテーションをするなんていうことは僕の知る限りはなかった。でも今はする人が結構出てきました。しっかりしたトレーナーがいなくても、そういうことに興味を持つ学校の先生たちが増えてきたのは事実です。それはもちろん、テーピングが普及したおかげだけじゃなくて、ドクターを中心としてスポーツ医学が広められた結果だと思います。ある意味ではそういう知識が広まってきているので、昔に比べると、「足首をケガしたから即テーピング」というのではなくて、間にワンクッション置くというような動きが徐々に出てきている。

山本:今は現状を踏まえてトレーナーがいないという前提で話をしていますが、今後例えばマネージャーがトレーナー的な役割をしたり、体育の先生がそういう役割を担ったりという形で「トレーナー」的な人が現場に根づいたとしたら、テーピングの使い方としては、今鹿倉さんが言われたように、テーピングとRICE、テーピングとその後のリハビリとかという形で必ずセットにして選手に説明したり、行っていく努力をしていかなければいけないですね。

鹿倉:テープを売っている会社にいて何なんですが、そういう考え方がしっかり根づけば、テープを使う量は多分減ると思います。逆に言えば、そういう考え方を持った人が現場へ出ればテープの需要は増えるのかもしれないですけれど、要するに無駄な使い方というのが減って正しい使い方になると思う。今はまだ正しく使っていない人がいるわけですから。

テープを無駄に使わないために

TJ:テープの需要はどういう伸び方をしているのですか?

鹿倉:今は横這いに近いものになっていると思いますね。少しずつしか伸びていない。導入から4、5年経った段階では2倍とはいかないけれど、50%アップといったような感じでどんどん伸びていましたけれど、今は10%を切るくらいの伸びしかないのではないでしょうか。

山本:国際武道大学では、足関節に使う非伸縮性テープ(3.8cm)だけでも年間約3000本、膝や肘に使う伸縮性テープ(5.0cm)でも2500本使っています。足関節の数で言えば約5000本は巻いていますから、相当な量になります。

鹿倉:日本では相当多いほうでしょうね。

山本:数年前、テーピングを正しく利用するために各クラブの予算から医療費をすべて切り離し、健康管理室で一括してテープを含めた救急用品を取り扱うシステムにしました。各クラブでは必要があれば、いくらでもテーピングを使用することができるが、テーピング講習を受けた学生トレーナーだけに扱わせるというものです。しかし、自由に使えるだけに浪費する傾向もあり、一時期テープの使用量がすごく多くなりすぎて困ったことがあります。
 選手の多くは痛みからの逃れ、あるいはケガをした後すぐに復帰したいためにテーピングをしてもらいたがる。その対応として、特に膝に関してはテープに頼らず、筋力トレーニングをも並行して行うことを必ず義務づけることにした。膝に限らず長期間テーピングをしながら運動している者には、定期的に筋力をチェックしたり機能検査をしたりして、筋力が低ければ、「テープには頼るな。筋力強化がしっかりできないならテープは巻かない」と言う。いたずらに長い間テーピングし続けるのではなく、できればテーピングをしないでプレーできるように方向づける努力をさせています。
 本当に必要な者だけが巻くように注意するようになってから、むやみに巻かずに、かなり量的にも使用量は減りました。

「日本的テーピング」の弊害

鹿倉:全体的に最近は随分変わってきましたけれど、やはり以前の体育系の学生というと、スポーツ医学は何も知らない。現実に大学で教えていなかったのだから無理なのかもしれないですが、そういう人たちが高校の先生になっている場合もありますからね。そうするとやはり「根性」につながり、どうしてもテーピングを使って無理してやらせるということにつながってしまう。そこまでいくと、テーピングを離れて日本のスポーツ界の話になる。日本では大事な試合ならケガを押してでも出場するという考え方があるし、選手層が一般的に薄い。極端な話では、高校の先生と以前話したときに、「その選手はケガをしているからテーピングしても他の選手より多分能力が落ちますよ」と言うと、「いや、この選手はケガして能力が落ちても控えの選手よりずっといいんだ」となる。

山本:そういうコーチいますね。

鹿倉:いるでしょう。そうすると、テーピングを利用して無理に使うわけですよ。

山本:特に球技、ラグビーやサッカーなど、常に全力疾走しなくてもいいような競技ですと、テーピングして何とか機敏に動ければ、それで控えの選手よりずっと動けるというのは結構現実的にあるかもしれない。

鹿倉:バレーボールでも例えば足首を傷めて、早い段階でジャンプしたら痛いわけですよ。だから「ジャンプ力が落ちますよ」と言ったら、「いや、こいつは落ちても他の選手より跳ぶから」という調子で選手を使う人も中にはいるわけです。そうするとドクター側から「テーピングを過信した使い方をしている」と言われる。現場は過信しているわけではなく、他にいないからその選手をどうしても出したい。

山本:止むを得ぬ事情で、というわけですね。

鹿倉:そうです。だからある意味で過信というのは正しいかもしれないけれど、選手層の薄さという状況に対応するものとしてポッと出てきたのがテーピングであったという見方もできると思います。

山本:日本ではちょっと間違った形で、と言うか、本来の使われ方とは違う形で普及したのかもしれないですね。

鹿倉:そういう考え方と、日本のスポーツ風土にマッチしたという考え方もある。ケガをして何も施さないでプレーしたらかなりパフォーマンスは落ちますけれど、テーピングすれば少しよくなる。それが、選手層の薄さをカバーするのに好都合だった。テーピングの効果が多少なりともあったために、どんどん利用されてしまった。別にテーピングが悪いわけじゃなくて、監督・コーチに根本的な考え方を変えてもらわなければいけない面がある……。

テーピングの代用品について

TJ:先ほどコストの問題が出ましたが、最近、テーピングほどコストがかからない代用品が出てきましたね。

鹿倉:まずアンクルブレイスですね。アメリカでの例ですが、エール大学では予防としてのテーピングをやめて、アンクルブレイスをしています。

山本:イトーヨーカドーの永田さん(注/永田幸雄氏。(株)イトーヨーカ堂女子バレーボール部トレーナー)も、アンクルブレイスを使ってかなりいいとおっしゃっています。コストの軽減にもなるし、選手も非常に頻繁に使っているそうです。

鹿倉:再発予防でアンクルブレイスを用いる場合は注意が必要です。アメリカでの使われ方を言うと、ケガをした選手はテーピングしないでアンクルブレイスをするかと言うと、そうではない。僕の知っているいくつかの大学では、テーピングをしてアンクルブレイスをする。徐々にテーピングを少なくしていって、アンクルブレイスを残すという使い方なんです。テーピングを普通に使っていき、さらにそれを補強するものとしてアンクルブレイスを使う。
 一方、ケガの予防に関しては、極端に言えばお金のあるところはテープを使っているし、お金のないところはアンクルブレイスという形になっています。日本でアンクルブレイスが普及し、「アンクルブレイスさえすれば」という考え方が広がりそうな気がして、ちょっと心配ですね。アンクルプレイスも今度うちで輸入販売するものがあるんですが、それを再発予防として使われると、ちよつと固定力が弱いかなという感があります。基本的には予防として使って、再発予防の場合はテーピングを組み合わせて使うなどしてもらうと、効果的に利用できると思います。

山本:僕のところでも実験をやっています。テーピングをずっと巻いてきた人間にアンクルブレイスを使わせてみて、具合をみていますが、やはりアンクルブレイスにも利点と欠点がある。自分で簡単に装着できるし、運動中に緩みが出た場合でも、テーピングのように巻き直さなくても締め直せばよいという簡便さはある。しかしブレイスの中で多少ズレてしまうという問題がやはりあります。ですから、利点をうまく利用して使っていけば、多少なりともコスト低減策の1つにはなるかもしれない。

鹿倉:予防という意味では、今までテーピングしたいけれど、していなかったというような競技では、アンクルブレイスはこれからもっと使われると思います。

山本:高校のサッカーも非常にケガが多い。テーピングを使いたいのだけれどもコストの面で問題があるということで、アンクルブレイス(紐で締めるタイプ)をちょっと使ってもらったことがあります。そうしたら、いいのだけれど甲の部分が隠されてしまう。サッカーというのはボールが足に当たる感覚によってキックの強度調節をするので、ブレイスをするとそれがちょっと死んでしまうという。だから競技特性によって使える競技と、使い難いものが出てくる。

鹿倉:例えばラグビーはルールで禁じられているので、金具の入っているものは絶対だめですからね。競技によって当然使われ方は変わってきます。
 ですが、基本的に僕はもっともっとアンクルブレイスのようなものは予防のために使ったほうがいいと考えます。ケガというのはしないのがベストですから。でも残念ながら100%ケガを予防することはできない。ジーッと座っているしかないですね、ケガをしたくなかったら。スポーツをするわけですから、それは無理です。ケガをした後ももちろん大事ですが、その前にしないようにということをできる限り考えていくというのが大切だと思います。

TJ:最近、キネシオテーピングという名前のついたテーピングが使われているようですが……。

山本:薄い伸縮性テープを伸ばして貼りつけるものですね。今回話題になっているテーピングとは全く違う性質のものなのにテーピングと名がついているために、多くの人が混乱しているようです。

鹿倉:貼りつけて痛みがとれるとのことですが、科学的な裏付けが曖昧なところがあるようです。

山本:皮膚の張力の働きによるものだと聞いていますが、これを靭帯の保護、関節の動きの制限に用いる本来のテーピングと同様に考えて用いたり、痛みのある部位にむやみに貼りつけている選手も多いようです。十分納得のいく裏付けとともに普及に努めないと、せっかく十数年もかけて普及した本来のテーピングの効用を妨げることになりかねないと思います。

テーピングは本当に効果があるのか?

山本:ここまでは、あくまでもテーピングには効果があるという前提で話を進めてきました。しかし数年前“Athletic Training”(注/NATA=全米アスレティック・トレーナーズ協会の機関誌)に、「アンクルテーピング、ケガの予防か、時間の無駄か」というタイトルの論文が出ていましたね。何人かの研究者がテーピングの効果をいろんな観点から検証して、効果があると言う人もいれば、効果がないと言う人もいた。この辺は今盛んに論議されているところだと思うんですが、いかがでしようか。

鹿倉:僕は基本的には効果があると思います。特に足関節に関しては非常に効果があると思う。1972年だったと思いますが、ギャリックともう1人の人が千何百人を被検者としてバスケットボールの試合をやった結果、テーピングをしていたほうがケガの発生率が少なかったし、特に捻挫の経験がある人にはそれが少なかった。こういう論文が出ていますし、実際にアメリカンフットボールなどの競技ではテーピングをしていますけれど、やはりケガの後しばらく経った選手というのはテーピングをしていると、再発は非常に少ないですね。あとはズレの問題です。以前、梅ヶ枝先生(注/梅ヶ枝健一氏。日本バスケットボール協会医科学研究部長)と一緒に実験をしたときには、20分後にはまるっきりダメになっていたという結果が出ていますけれど……。

山本:あの論文を学生のときに見て愕然とした。テープを巻いた人が下手だったのだろうと思って、パッと見たら鹿倉さんの名前が入ってますし……。

鹿倉:実は、僕が巻いたのは一部だけなんです。テーピングする前と後に前方引き出しのテストをするという実験をまず診療室内でやったんですが、そのテーピングは僕がしました。ただし、バスケットボールをやらせてテープがズレたかズレないかという実験は、僕が巻いていない。あれは別の人が巻いています。

山本:あのデータでは20分のバスケットボールでもうほとんど効果がないほど緩んでいた。こんなことが本当ならば、テーピングは衰退の一途を辿るというか、テーピングをしても意味がないのではないか、この実験は伸縮性テープか何かで行っているのではないか、とか、いろいろ考えましたよ。

鹿倉:一応名前が載っているからこんなこと言ってはいけないのだけれど、バスケットボールのほうの実験はできればもう1回やりたいなと思います。

山本:前方引き出しに関しては効果はなかったけれど、内反制御はかなり効果があったということでしたね。僕も大学で包帯とテーピングを比較する実験をエックス線的にやってみたんですが、テーピングのほうは90分間のトレーニングが終わった後でも、ほとんど緩みはなかった。かなり制動効果は持続していました。それに比べて包帯は、巻いた直後もあまり制動効果はないし、90分のトレーニングを終わったらほとんど巻く前の状態に戻っている。ですから、テーピングの効果について僕自身は、足関節の内反制御に関しては、かなり効果が高いのではないかという気がしています。

鹿倉:効果は巻き方によっても変わります。先ほども言ったように、見よう見まねでは効果はなかなか出てこない。ちょっと位置がズレた巻き方をしているだけで効果をなくしていることも多々あると思います。機能解剖的なことを把握して、力を入れるべきところはしっかり入れて、という巻き方をやはり覚えてもらいたいです。

〔対談を終えて〕

 鹿倉氏のお話にもあったように、テーピングそのものの習得よりも、それを正しく行うための機能解剖学やケガの発生要因、競技特性などの知識を学ぶことがいかに重要であるか、という言忍識が未だ不十分であるように思う。言うまでもなく、テーピングは痛みなどを一時的に抑えたり、選手に無理をさせるための手段ではないことをよく認識したうえで、正しいテーピングが行われるべきだろう。
 テーピングの方法は、アメリカにトレーナーが10人いれば10通りの巻き方があると言われるくらい多様なものである。しかし、どんなにそのやり方が異なっていても、その目的と基本的な考え方は同じである。その基本的な考え方を14年もの間語り続け、日本でテーピングの普及活動を行ってきた鹿倉氏の功績は大きいと思う。今後テーピングにとどまらず、アスレティック・トレーニングの知識を多くの人々に伝えていただけることを願ってやまない(山本)。