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内容は、掲載当時(1991年)のものであり、現在の状況とは異なる場合もありますので、あらかじめご了承ください。

出典:白木仁,山本利春:トレーナーの未来(上),どうすればトレーナーになれるか,Training Journal,13(12)  20-25,1991.
※ 役職は掲載時のもの。なお、連載当時(1991年)とは、現在の状況と一部異なっていることもありますので、あらかじめご了承おきください。 対談・現場的好奇心

トレーナーの未来(上)  どうすればトレーナーになれるか

 

体育系の大学でトレーナー活動を始め、現在は後進の指導に当たっているという非常に似通った立場にいる2人の対談です。今月と来月の2回にわたって掲載しますが、前半では「トレーナーになりたい」と希望する学生が急増している現状への対応について話が展開します。

 ゲスト/白木仁(筑波大学体育科系講師)
 聞き手/山本利春(国際武道大学体育学部助手)

しらき・ひとし
1957年生まれ。筑波大学体育専門学群卒業、同大学院修士課程体育研究科修了。筑波大学助手、名城大学講師等を経て今年4月より筑波大学体育科学系講師、陸上競技部ヘッドトレーナー。柔道整復師の資格も持つ。'85年、'87年のユニバーシアードにトレーナーとして参加。

やまもと・としはる
1961年生まれ。順天堂大学体育学部卒業、同大学院修士課程修了。現在、国際武道大学体育学部助手(スポーツ医学)。学生時代からトレーナー活動を行い、先頃行われた第3回世界陸上選手権では日本選手団のトレーナーを務めた。


1991年10月12日、筑波大学・白木研究室にて収録。

〔対談を始める前に〕

 トレーナーという言葉が日本に渡ってきてから何年経っただろう。日本におけるトレーナー制度、あるいは資格に関する議論は、これまで様々な場で取り上けられてきたが、いつも結論が出ない。それだけ、日本でトレーナーという仕事が職業として確立していくには多くの障壁が存在するということなのだろうか。しかし、トレーナー志望の人は年々増えているように思う。

 今回はトレーナー志望者が比較的多い体育系大学で、トレーナーとして、また指導者として活躍してきた白木氏を訪ね、これまでの経験を踏まえて、大学でトレーナー養成を行うことの意義と問題点について、日本独自のトレーナーのあり方について存分に語り合うことにした。

 日本で長年トレーナー活動を続けてきた白木氏なので、日本の現状や問題点をよく把握し、理想的でない現実的なお話を聞けるのではないかと思いつつ出かけた。トレーナーの仕事をしたいという若い人々にとって、どのような道を選択することが良いのかを考えるうえで、参考になれば幸いである(山本)。  

増えるトレーナー志望者

山本:最近のスポーツ界を見渡してみると、トレーナーという肩書で働く人たち、あるいはトレーナー的な活動をする人たちが非常に増えてきている。それと同時に白木さんも僕も大学に勤めているわけですが、学生からの進路相談を受ける際、トレーナーになりたいと、具体的に「トレーナー」という名称を挙げて希望するケースが非常に増えてきた。
 それがどの程度増えてきているかというのは、我々が教員として直接学生から相談を受ける回数が増えただけでなく、他大学の先生から相談を受けることも多い。体育大学に限らず、一般大学の、例えば陸上競技やバスケットボールを指導している先生方からも、クラブの学生がトレーナーになりたいのだがどうしたらいいのかと言ってくるんです。このような状況のなかでいつも思うのは、「トレーナー」という言葉が氾濫しているということと、学生自身がどの程度トレーナーという職業を理解し、将来の自分の仕事としてどのように考えているかということです。その辺をどうお考えになりますか。

白木:僕らがトレーナー活動を始めたのが13、4年前です。その頃はトレーナーという存在がよく理解されていなかった。ヨーロッパでいうトレーナーはコーチのことです。一方、ここで言っているトレーナーは、アメリ力的なトレーナーのことですけれども、当時はこの2者がよく混同された。「お前は何なんだ、トレーナーというのは一体何なんだ、それはコーチだろう」と、主にサッカー関係者から言われました。逆にアメリカンフットボールや陸上競技の関係者に「トレーナー」と言うと、わかっていただけた。その後僕らが大学で活動を続けていくのと同時に、世の中でトレーナーが注目され出した。特にバレーボールとかサッカー、野球、陸上競技などの競技ですね。白石君(編集部注/白石ひろし氏。現在(株)ヒーロー工房所属)らの貢献が大きいと思うのですが、彼らがトレーナーとして活躍し、広まってきたのがこの4、5年だと思う。

 そんな中で学生の意識の移り変わりも確かにあった。陸上競技部の例を言いますと、最初の頃トレーナーをやる学生は、ある程度いやいやだった。3年間選手として過ごした学生に「トレーナーをやってみないか。からだのこともわかるし、卒業してからも便利だぞ」という誘い方をしていたんですが、最近は大学へ入って来てすぐに、「私トレーナーやりたいんです」と言ってくる学生が陸上競技部だけでも毎年5人以上います。そういう学生に対してどう応えるか。山本君のところでも同じように接していると思いますが、「陸上競技を通じて大学に入ってきたのだから陸上競技をまずやろうじゃないか。それで1年くらい経って生活等が慣れたところで、トレーナーに関することをいろいろ勉強していこう」とアドバイスしています。入学したての学生は、トレーナーがどういうものかよくわかっていない。恰好いいというくらいのイメージしかないんですね。「選手の横にいつもついていて、何かしてあげられそうで…」という夢のような話ばかり。大学院レベルでもそういう学生がいる。今陸上競技部の例を出しましたけれど、そういう学生には「就職はありませんよ」と最初に言ってしまいます。「就職するには10年くらい勉強しないと一人前にはなれないし、それなりのいろいろな資格も取らなければいけない。非常に先が長いがそれでもやるのか」という問いにイエスと答えた者に対してだけ、こちらが専門的にバックアップするという形で今はやっています。

 とにかく、トレーナーをやりたいという人はここ(筑波大学)の体育学部の中では非常に多くなっているのが現状です。1年生からやりたいというのは陸上競技部だけでも5人ですから、他のクラブを含めると…、うちの体育学部は1学年240人ですので、その1割はいると思いますね。

山本:入学試験の面接のときに、どういうきっかけでこの大学を選んだのかとか、どうして体育学部を選んだのかと面接官が聞くらしい。そのときに「トレーナーになりたい。将来トレーナーを目指したい」と言い出す子が増えてきたようです。これは我々の大学だけではなくて、体育系の学部を持っている順天堂大学、日本体育大学、筑波大学といった大学の先生方から共通して聞く話です。もう1つは、高校の先生が相談を持ちかけてくる。「うちの高校の3年生がトレーナーになりたいと言うのだけれど、どの大学を選んだらよいのか。どういう勉強をしたらいいのか」ということを電話等で聞いてくるケースが、最近非常に増えてきました。

 ですから大学生だけではなく高校生レベルでも、進路を話題にするときに、トレーナーを希望する子が増えてきたことは事実です。ただ、先ほど白木さんが言われたように、トレーナーはどういうものなのかという認識が欠けているような気はします。テーピングができて、マッサージができて、エリート選手と会話ができて、誰かがケガをしたときにサッと飛んでいく…。それが「トレーナー」みたいな、そういう感覚が未だにあるようです。

白木:そうだね。確かにそういう感覚で捉えられている。実は大学生だけでなく、鍼・灸やマッサージ、あるいは柔道整復師の資格を取る専門学校へ行っている人からもそういう問い合わせが結構ある。「トレーナーをやりたいのですがどうしたらいいのでしょうか」と。それに対していつも言うのは、「まずは競技に接してくれないと、どうしようもない」ということです。そうすると、彼らの中には「競技能力が低かったからトレーナーをやるんだ」と答える人もいる。あるいは「ケガをして競技ができないからトレーナーでもやろう」という人。

山本:一昔前はそれが多かった。最近では逆に、僕の大学でもいるのですが、インカレの選手なのに、敢えて「競技は辞めて僕はトレーナーに専念します」と言う者も出てきた。ということは、競技に望みがない人間がマネージャー的にやってきたトレーナーという役割が、今度は専門職として捉えられつつあるとの印象も受けます。

 ただやはり問題点としてあるのは、簡単に「トレーナーをやりたい」と言われても、いきなり大学の1年から「トレーナー専科」という形でやっていいのかどうか。それは疑問で、本来ならばその競技でどういった動きがリスクとなるのか、あるいはその動きによってどこの筋肉が疲労するのか、どんなトレーニングが原因でリスクが生じるのかということを十分知ったうえで活動しなければならない。けれども往々にして、トレーナーのノウハウの部分、「こういう場合はこうする」ということだけを知りたがる。

白木:そのノウハウだけ聞いて去っていてしまう者は多いですね。

山本:だから「ちょっと待て」ということになる。筑波大学もそうだと思うんですが、うちでは1年生で救急看護法や解剖学、あるいはトレーニング論、運動生理学などの基礎的な講義があります。まだそういった授業も受けていないのに、いきなりトレーナーの勉強をすることはできない。ですから先ほど白木さんも指摘されたように、クラブ活動の中でまず自分のからだを動かして、できる範囲でトレーニングをやる。それと知識の面ではまず基礎的な専門教養を身につける。「トレーナーの勉強はそれからでも遅くはない。そっちからでもまずは一生懸命やってみろ」と言うと、いつの間にかトレーナーになりたいと言い出したことを忘れてしまって、もう来なくなる人間と、じっくり温めてもう1回来る人間と2つに分かれます。やっぱり後者の人間がモチベーションが高かったりします。

白木:それはあるね。その通りだね。体育系の学部で4年間の単位を取って、初めて何となくわかってくるのではないのですかね。からだの動きなり、なぜケガが起こるのかというメカニズムなどが。トレーナーの養成に関しては、4年間まずクラブ活動を通してスポーツがどうなっているのかということを知ってからでも遅くないような気がする。ですから大学院レベルで養成するようにすれば、数は出ないですが、質の高い人が育っていくのではないかと今は思っています。でも実際にはそういうカリキュラムを持った教育機関がないというのが現実です。  

大学での「トレーナー教育」

TJ:制度とか力リキュラムが整備されない状況はしばらく続くと思います。しかし現実にはトレーナー志望の学生がいるわけだし、今後も増えると思います。そうしたなかで、学生さんたちにどう対応しているのか、それを聞かせて下さい。

山本:体育大学というのはスポーツが盛んですから、現場でのトレーナー活動を行うには非常に恵まれた環境にあるわけですね。クラブ活動の中で、まず学年の浅い1〜2年の頃は、可能な限り自分もからだを動かしながらスポーツのことを知る。一緒に汗を流してトレーニングのきつさとか、栄養の重要性、疲労回復のノウハウ、そういったことはやはり自分で実体験してみなければわからないのでそういう経験をしながら、アイシングや、テーピングなど現場でのニーズとして最低限必要なものをやっていく。なおかつ授業のなかで解剖学とか、生理学、救急法などを着実に身につけていく。ですから、クラブのトレーナーとしてのトレーナー活動、それに選手としてのトレーニングの経験を低学年でやって、3年からは我々のスポーツ医学研究室でのゼミナールに参加してもらう。いわゆる「トレーナー専攻」として。そうするとゼミの時間帯で勉強会を消化できるわけですね。ゼミ活動イコール、トレーナーズルームでのトレーナー活動という形になります。そのゼミの代表者たちが、クラブのトレーナーが集まる勉強会のリーダーとなって、今度は後輩の育成もしながらチームワークをもって大学全体のトレーナーのまとめをしていく。それを我々が方向修正しながら統轄し、学生の教育とトレーナーズルームの運営をやっているというのが現状です。

 そのなかで一番問題になってくるのが、学生に指導するための時間ですね。我々もそうなんですが、学生たちも時間がないんですね。授業に追われる。クラブ活動に追われる。例えば夜、7時から9時まで勉強会をやろうと言ったときに、体育館は1つしかないもんですから、バレー部とバスケット部が時間交代で練習しているんですね。ですから勉強会を夜に組みますと、たまたま夜の練習になっているクラブのトレーナーは参加できない。トレーナーが全くコートにいないというのは選手にとっても不安ですし、非常に危険なことです。だからクラブのトレーナーが全員揃っての勉強会というのは時間を見積もるのが非常に難しい。そういう悩みというか、ジレンマというか、そういうのを抱えながらできる範囲でやっているというのが今の現状です、武道大学では。

白木:筑波の場合も基本的に同じです。同じなんですけれど、大学院がありますので4年間の学部を卒業した者は、院生もしくは研究生になってスポーツ医学の研究室に入れば、その中に授業があるんですね。公然としたゼミがあるんです。あるいは修論研究とか。そのなかで詳しいところまでトレーナーの勉強ができるようになっている。それがちょっと武道大学とは違うんですけれども、4年生までの学部学生への指導には、今山本君が指摘したのと同じような問題があります。やはりクラブの練習時間の問題などですね。それを解消するところまでいっていないのですが、筑波の場合には体育会のトレーナー勉強会というのを開いています。それは全クラブが出れるような時間帯、当然夜になりますが、週1回、勉強会をやって、各クラブのトレーナーがある一定レベル以上の勉強をし、それをクラブに持って帰るようにしている。筑波は体育学部だけではなくて、医学部もありますし、文科系の学部もある。そういう学部の人たちも一緒に参加するので、なるべくわかりやすい基礎的なレベルの勉強会なのです。それに対して大学院のレベルではかなり高度な内容でやっています。

山本:そういうシステムの中で育ったトレーナーが、比較的トレーナー活動に近い職業に就くことかできて、活動しているという例はかなりありますか。

白木:うちの大学の場合は、大学院を修了すると大学教員志望が出る。だからうまくいけば大学に就職してしまう。それがダメでも教育関係を希望する学生が多い。しかし大学にも高校にも入りにくくなっている現状がありますので、最近やっとフィットネスクラブにトレーナーとして入ったり、実業団チームにやはりトレーナーとして入ったりするケースが出てきました。でもこれは入社試験を受けて入るのではなくて、口コミの世界ですから誰かが誰かを知っていて、誰かか誰かを推薦する。その部分がブラックボックスになっているんですね。

山本:最近僕のところの学生も、競技スポーツのチームを持つある企業で2名ほどトレーナーとして採用してくれるということが決まったのですが、今非常に経済事情が悪いですね。ぎりぎりになって内定を取り消されてしまったんです。経済的な事情で会社が人員を削るとなると、トレーナーのように見た目お金にならない、サービス的な人間が削られてしまうのかなと思いました。今回そんな例かあったんですが、以前から企業のトレーナーというのは枠が狭くて、トレーナー専任で企業に就職するのは倍率としては非常に厳しい…。  

誰が普及させていくか

山本:白木さんたちと一緒に7、8年前にある企業のお手伝いでトレーナー活動をしたときに、やはり今回と同じような話題が出ましたね。「どうしたら日本でトレーナーを普及させていくことかできるかなあ」と考えたときに、トレーナーという職業は現実にはないのだから、それに関連した仕事をするためには、食いぶちがある、つまり自分の飯を食えるという土台を持って活動していかなくては話にならない。それならどうしたらいいかと考えると、日本に合ったトレーナーのスタイルというのは体育の先生ではないかなという気がした。体育の先生は毎年何人も配属されて若手が教育現場に出ていく。クラブ活動の顧問をやったりして、いわゆるスポーツの指導者となるわけです。そういう人たちがトレーナー的なノウハウを持っていれば現場のニーズに応えられるのではないかと、当時思いました。システムの解決にはならないかもしれないけれども、現場のニーズに応えられるんじゃないかなと。だから現在、指導的な立場になって思うのは、我々のように体育指導者の卵を養成する立場にある人間が、トレーナー的なノウハウを教えて、教えてもらった人間が日本中に散らばって行くことが今のところ一番手っ取り早いのではないかということです。我々が現場に入っていって、どんなに汗水垂らしてトレーナー活動をしたところで、周りにいる人間しか助けられませんけれど、底辺を広げれば1人でも多くの人がサポートを受けられるのではないかという気がする。

 そういう意味では大学でのトレーナー養成というのは、間接的には現場のニーズに応えるための1つの対策になっているのではないかと思います。

白木:僕も同じように考えますね。スポーツによるケガで悩む人に対してかなり力になっていると。今、山本君が触れましたけど、10年前、あるいは7、8年前、どうしたらトレーナーをやっていけるのか、不安で不安で仕方なかった。本当に飯が食えないわけですよ。僕の場合は大学院を出た後、企業に勤めながらトレーナー活動をして、また大学院に戻って、今の職を得ている。自分で言うのもおかしいですが、今のポジションを得るのに苦労もしているし、何とか理想的な形でトレーナー活動をしたい一心で、いろいろ転々としてきたわけです。大学に入ったばかりの学生が「私トレーナーをしたいのです」と言ったとき、自分のこうした経験を踏まえ、「そんなに簡単にできるものではない。お金を取るのにどれだけ苦労するか」という話をすることもあるのですが、やはりそういう人たちにも希望は持たさなければならない。「トレーナーの需要はこれから絶対に増えてくるぞ。だからしっかり競技をしてトレーナーの勉強をしてくれ。必ずいいことがあるから」と話して、若い芽を摘まないようにしている。

 トレーナーで飯を食おうとしたときに、そうした就職の難しさという問題は確かにあるけれども、体育の先生の卵にトレーナーのノウハウを少しでも教える。授業を通してでもいいからそのコマを増やしていくことが僕らの役割ではないかなと思っている。テーピングくらい巻けますよ、マッサージくらいならできますよ、ケガに対しての処置も完壁ではなくてもノウハウは知っていますよ、という人が増えてきてくれれば、彼らが先生になったとき、自分の生徒に対して「これはこうだよ。これはわからないから病院へ行きましょう」と言える。病院を選ぶにしても、いい整形外科、いい内科をきちんと選べるようになると思うので、今ここで僕らがやっているのはやりがいのある仕事だと自分では感じているのです。

山本:大学の正規の力リキュラムがないなかで学生に指導するというのは、ある面ボランティア的な活動ですから、かなり自分の時間を犠牲にしなくてはいけないのですけれど、やはりやりがいはあります。手応えは十分にありますし。ただ、少し賛沢を言わせてもらうと、我々が一生懸命になってもそれに応えてくれる意欲的な学生が必ずしも多いとは言えない。  

トレーナーの就職事情

山本:かなり厳しいことを言われたことがありますよ、ある先生から。「君たちがやっていることは非常にいいことかもしれないが、学生に期待を持たせるだけ持たせておいて、それで職がないのではあまりではないか」という意見です。「いいぞいいぞという魅力だけを見せつけておいて、じゃあそれを活かしてどのような職につけるのかというところの見通しがない。それをどう考えるのか」と間い詰められた。

白木:確かにニーズは増えているんです。でも職業としてのニーズではない。例えば実業団チームからトレーナーが欲しいという話が数多くありますが、大半が正社員ではなく、パートタイマーとして欲しいわけです。試合のとき、あるいは週に何回かという形で。つまり組織の一員としては認めてくれていません。学部を卒業して研究生をやっている学生が、何も職がないのでそれならやってみようということで、そうしたパートの仕事をやらせることもあるんですが、後で感想を聞くとかなり幻滅というか、がっかりして帰って来るほうが多い。なかには良かったという者も当然いましたが、就職口としての求人はないと思ったほうがいいですね。ニーズはあるが大半がアルバイトの延長です。

 もう1つ、「企業トレーナー」と我々が呼んでいる、スポーツ関連企業に所属し、イベント時に派遣されるトレーナーがいますね。この種のトレーナーも正社員として認めているところは非常に少ない。認められるのはかなり実績を積んだ人です。  

高校生へのアドバイス

TJ:山本先生が冒頭で、高校の先生からも進路相談という形でトレーナーに関する相談が増えてきたとおっしゃいましたね。本誌の読者にも高校の先生は多く、多分その辺のところで何か答えが欲しい方もいらっしゃると思うのですが……。

白木:僕は絶対体育学部へ行ってもらいたいですね、まずは。医学部よりも体育学部へ行ってほしい。もしトレーナーの勉強をしたい気持ちがあるんだったら、大学でスポーツにどっぷりつかってみてからでも遅くはないと思うんです。専門学校へ行って資格を取る前に、スポーツの現状に接してみてほしい。

山本:僕はこう言っています。日本におけるトレーナー的な仕事をいくつか挙げてみると、例えば体育の先生をやりなから専門的な知識を活かして現場でトレーナー的な活動をする。あるいは確率は低いけれども、実業団チームの専属トレーナーとしてやっていく。さらには病院に入り込んで、リハビリルームなどにスポーツ選手がたまに来ますから、そういう選手の対応をする。それから、これはトレーニングに偏るかもしれないけれど、フィットネス施設でトレーニングのノウハウや、ケガをしないような体力作りはどうしたらいいのか、ということを教えていく。または、鍼灸師、マッサージ師の資格を取って、いわゆるスポーツクリニックを開業して独自にやっていく。いろんなスタイルがあると思う。そこで「お前はどれに行きたいか」と問うわけですよ。「お前はどれを選ぶ?もしお金を儲けたくて、自分独自のクリニックを作りたいという気持ちがあるのだったら、最初に体育大学に行ってほしいことは確かなのだけど、将来的には鍼灸師または柔道整復師などの資格を取らざるを得ないぞ」と言う。体育の先生になるのが希望であれば、体育大学に入って教員免許を取り、採用試験を受けなければいけない。また実業団チームのトレーナーを目指したいと言うのであれば、これは何年かかるかわからないけれど、やはり現場の経験を積んでいかなくてはならない。そのためには、やはり運動のことを理解できる体育大学のようなところに行ってとにかく下積みをして…、という助言になる。

白木:トレーナーと言ってもいろいろあるからね。

山本:日本ではアメリ力みたいに職業として確立しているわけではなくて、「トレーナー的」な仕事かある。だからお前はその中のどれを選ぶのか、というわけです。このように高校の先生方がアドバイスすれば、生徒はその中で選択をしていくのではないかなと思います。

白木:なるほど。でも僕はちょっとシビアにみていますね。

山本:どういう道を選ぶにしても、体育大学は通過するべきだということですね。

白木:厳しいようですけれどね。現状を見渡してみると、いろいろな道から来た人か、今「トレーナー」と称して活動していますよね。やっぱり僕としてはある一定のレベルを維持するためには、その人に運動経験をしてもらうという意味も含めて、日本のスポーツの構造を知るうえでも、体育大学を経てもらいたいと思うわけです。


©1991 Shiraki Hitoshi, Yamamoto Toshiharu
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