ご注意ください。
※ 所属・役職などは掲載時のもの。なお、連載当時(2004年)とは、現在の状況と一部異なることもありますので、あらかじめご了承おきください。
出典:山本利春「医療機関の選び方」 連載 ボディケア&コンディショニング 35
陸上競技マガジン 2004年3月号 54(3):146-147,2004.
皆さんは部活でケガをしたり、どこかに痛みを感じたりしたら、どんな医療機関に行きますか?
一般的には、「かかりつけの病院」、あるいは「学校の先生に紹介されたところ」、「近所のおばさんにすすめられたところ」といった答えが返ってくると思います。恵まれたケースでは、「チームドクターのところ」という回答もあるかもしれません。
いずれにせよ、それほど多くない候補の中から、行くべき医療機関を選ぶことになりますが、その際の選択基準として、私たちは相手(つまり医療機関側)のことについてあまりにも知らなすぎるという傾向があります。
たとえば、「病院と接骨院の違いは何か?」という問いに対し、正確に答えられる人は大人でもごくわずかしかいません。でもこれは当たり前。学校では教えてくれないのですから。
そこで今回は、より有効に医療機関を利用するための基礎知識として、いろいろな医療機関の種類と特徴について解説します。それらの知識を自分なりに活用して、賢い医療機関選びをしてください。
まず医療機関の代表といえば病院です。病院とは、医師の国家資格を持った先生がいるところで、そのほかに、看護師、理学療法士、臨床検査技師といった専門スタッフが医師の診療をサポートしています。病院の特徴は、検査施設が充実していること。たとえば足首を激しくひねった場合、それがどの程度のケガなのか、見た目や外から触っただけではよくわかりません。病院には、それを正確に調べるための施設があるということです。捻挫(ねんざ)の場合なら、レントゲン撮影をしたり、MRIという装置で撮影をしたりして、どの靭帯(じんたい)がどの程度損傷を受けたのか、内出血はどのくらい起きているか、骨は無事かといったことを調べます。その検査結果をもとに医師が診断をし、治療方針を決めます。
ですから、自分のケガや痛みがどの程度のものなのか、そしてそれは何が原因で起こっているのかを知りたければ、まずは病院へ行って検査を受けることをおすすめします。
一口に病院といっても、いろいろな種類があることはご存知でしょう。
まず、規模(ベッド数)によって、名称が異なります。入院用のベッド数が20以上のものを病院、それ以下は医院、クリニック、診療所といった名称がつけられています。一般的に規模が大きくなるほど、検査施設が充実していて、医師の数も多くなります。総合病院と呼ばれるところや大学病院は、その代表格です。一方、医院やクリニック、診療所はいわゆる開業医で、個人経営のところが多いようです。
次に専門科について。医師はそれぞれ自分の専門分野を持っていて、内科、外科、整形外科、小児科といった看板を掲げています。総合病院や大学病院はこれらが多岐にわたっていて患者は自分の症状に合わせて、どの科にかかるか選択できるようになっています。スポーツが原因でケガや痛みを生じているのなら、迷わず整形外科へ行きましょう。整形外科は、関節や筋肉の診療を専門にしていますので、アスリートがケガや痛みをみてもらうには最も向いています。中でも、「スポーツ整形外科」とか「スポーツ外来」という看板を掲げているところならベター。スポーツ傷害を専門に診療している医師がいますので、より安心です。
規模の大きな総合病院や大学病院の場合、同じ科の中にも医師が複数います。医師によって、スポーツに詳しい人、膝が専門の人などの得意分野がありますので、事前にそれらの情報を収集し、みてもらいたい先生が勤務している曜日や時間帯を狙って行くというのも賢いやり方です。
接骨院は、スポーツ選手がよく利用する医療機関です。病院や医院と混同している人も多いようですから、その違いについて明確にしておきましょう。なお、接骨院と整骨院は看板が異なるだけで、基本的には同じものです。以下、これらをまとめて接骨院と呼ぶことにします。
接骨院の先生は、医師ではありません。日本独特の柔道整復師という医療資格を持った人で、医師とは明確に役割が区別されています。
その違いは、守備範囲の違いです。医師は、病気やケガ全般を診療するのに対し、柔道整復師は、骨折・脱臼(だっきゅう)・打撲(だぼく)・捻挫・挫傷(ざしょう)の5種のみを診療します。これらの症状はスポーツ選手に多いため、接骨院はスポーツ選手にとって身近なのです。
病院や医院とのもう一つの違いは、診療内容です。接骨院では、飲み薬を出す、注射を打つ、レントゲン等による検査をする、ということがありません。その代わり、温熱療法や電気治療などの治療行為を得意としています。病院は、リハビリ室などを持つところを除き一般的に「診察」がメインで「治療」には時間をかけない傾向があります。接骨院は、逆に治療を充実させて病院でフォローしきれない部分を担当し、患者さんたちから支持されてきた医療機関といえます。
皆さんが利用する際も、そうした特徴をよく理解し、病院との使い分けをしていくとよいでしょう。
鍼灸院(しんきゅういん)も、スポーツ選手がよく利用する医療機関の一つです。鍼灸院は、ズバリ鍼(はり)・灸(きゅう)の専門治療院です。ここの先生は、医師とは違う医療資格である、はり師・きゅう師の人たちです。接骨院の先生が柔道整復師と併せて、はり師・きゅう師の資格を持っているケースも多いようです。
鍼灸院では接骨院と同様、治療が中心です。鍼・灸のうち、スポーツ選手がよく利用するのは鍼のほうでしょう。鍼治療は、筋肉や関節の痛みを緩和させたり、筋肉の張り・こり・しこりを取ったりするのに有効です。私が鍼治療をすすめるのは、肉離れの回復期などで、ストレッチングやマッサージを十分にしても取れない張りやしこりがある場合等です。鍼治療は、筋肉をほぐすのにとても大きな効果を発揮するので、そのような目的に適しているのです。
スポーツに関連する医療資格としては、このほかにマッサージ師(正確には「あんまマッサージ指圧師」という)があります。柔道整復師や、はり師・きゅう師の人が、同時にこの資格を持っているケースが多く、他の治療法とマッサージを併用してさまざまな症状の治療に当たっています。
各種医療機関には、このようにそれぞれ特徴や得意分野があり、いろいろな患者さんのニーズに応えています。ケガや痛みは、いつも同じ症状ではありません。そのときの自分の症状は、どの医療機関に行くのがベストなのか。各医療機関の特徴を踏まえつつ、顧問の先生や家族とも相談して、最良の選択をしてください。
情報収集用のデータベースとして、インターネットでは「ATACK NET」(トレーニングとコンディショニング、スポーツ医・科学の総合情報ネットワーク http://www.atacknet.co.jp)が全国のスポーツクリニックリストを随時更新して掲載しています。また本誌の姉妹誌『コーチングクリニック』では、現在、全国のスポーツ治療院リストを連載中です。これらも参考になるでしょう。