ここに掲載する文章は、NHK FM「ひるどき情報千葉」にて放送された(2003.2.12、2.26)内容を文字にしたものです。内容、および役職などは放送当時のままですので、現状とは異なる部分がありますことを、あらかじめご承知おき下さい。


ひるどき情報千葉 NHK FM (2003.2.12、2.26放送)

 素敵なインフォメーションのコーナーです。毎週水曜日は学び情報です。このコーナーでは学びということをテーマに様々な情報をお伝えしていきます。今日は最近注目を浴びているスポーツトレーナーという仕事の内容について、医者でもなく監督でもコーチでもないというスポーツトレーナーとはどのような人たちなのか、勝浦市にある国際武道大学スポーツトレーナー学科助教授、山本利春さんに内容を伺っていきます。


――山本先生、こんにちは。よろしくお願いいたします。

山本:こんにちは。よろしくお願いします。

――まず、このスポーツトレーナーという仕事なんですけれども、どういうお仕事なんでしょう。

山本:そうですね。分かりやすく言いますと、スポーツ現場でのケガの処置、あるいはケガの予防、リハビリとか、そういったことを選手のサポート役としてお手伝いするような、そういう役割ですね。

――日本では、いつ頃から始まったんですか?

山本:1970年の後半から、そういった人たちが少しずつ現れて来まして、実際にかなり注目されてきたのは、やはり、Jリーグとか、プロ野球のスポーツ選手の裏方的役割としての存在がクローズアップされはじめてからだと思います。ですから最近ですね、注目され始めたのは。

 医師の指示のもとに機能回復のアドバイスをして、例えば筋力トレーニングをしたり、失われた柔軟性を改善させたり、あるいはいろんな動きの回復など、スポーツ選手がスポーツの現場で活動する上での身体的な様々な機能を回復させるようなことは、医学的な指示のもとに行うということができます。

――ケガをしないための、ということのお仕事のようですね。

山本:そうですね。従来はプロ野球にしても、どうしてもケガをした後のリハビリとか、あるいは疲れた身体をマッサージしてほぐすとか、そういったところをする仕事がトレーナーだというふうに思われがちだったんですけども、怪我をしないような体作りをするとか、様々な配慮をするということが、どちらかというとトレーナーならではの仕事といいますか、注目されるようになってきました。

――そうですか。学生たちにも大変な人気だそうですね。

山本:そうですね。本学でもスポーツトレーナー学科という学科を、2年前に立ち上げまして、日本では初めて開設された学科なんですけれども…

――初めてなんですね。武道大学が。

山本:そうですね。スポーツトレーナー学科という専門的な学科は、初めてなんです。最近のそういったスポーツトレーナーになりたいという若い人たちのニーズはたくさんありますし。

 それとアメリカではアスレティックトレーナーと呼ばれているんですね。アスレティック、つまり、スポーツ選手の医科学サポートをする役割をアスレティックトレーナーと呼んでいるんですが、これを養成する機関は、大学の教育機関にゆだねられているんです。大学で学んで、実習も積んで、そういう資格をとっていくと。ところが日本では正式な養成機関がなかったんですね。

 なのでどこで学べばよいのか、あるいはどんな資格をとればいいのかといったことが非常に分かりづらかったし、そういったことを目指す若い人たちにとってみると、どうすればそこを目指せるのか、ということが悩みの種だったんですね。

 口では話せても、なかなかそれがひとつのシステムになっていなかった。やるべきであろうと。その点、開設以来、学生さんたちの要望が高くて、非常に人気になっています。たくさんの方々から関心を寄せていただいています。

――そうですか。具体的にはどういうことを勉強するんですか?

山本:1番はやはり人の体の仕組みを勉強しなくてはいけないわけですね。例えば、骨の名前、靭帯の名前、あるいは関節の構造とか役割。役割のどんな部分が欠けると、ケガにつながるのかという、ケガのメカニズムですね。そういったことを理解することによって、どこの筋肉が衰えると、どんなケガが生じやすいかとか、あるいはそれを予防するためにはどういったトレーニングが有効で、最近よく名前を聞きますテーピングですとか、ストレッチング、あるいはシューズの選び方まで、様々な、そういったケガに有効な対処法を、どのような形で応用するかというところの裏づけをまずしっかり勉強しなくてはいけない。

 あとはその体力測定と一般的には言われますが、例えば筋力を調べたり、柔軟性を調べたり、あるいはフォームをチェックしたり、様々な観点から人の体の動きや機能を評価して、どこに問題があるかということをある程度指摘できるような目を養うと。そうすることによって、その情報を医学的な判断の出来るお医者さんに伝えたりとか、あるいは現場の技術的指導をされているコーチの方にそれを伝えたり、あるいは一緒にどのようにして競技力を高めるかということを話し合ったりですね。

 つまり、現場で指導されているコーチの方々と、医学的な治療や診断をしているお医者さんたちとのパイプ役になるという。

――そういうことなんですね。

山本:それが一番大きな役割ですので、それに関連した分野の勉強をたくさんしないといけなくなります。

――そうなんですね。実習というのもあるんですか?

山本:そうですね。これはもう頭の中で分かっていても、実際にどのように応用するかが大切なので、実際にそういう問題があると仮定して、例えばストレッチングをどのようにするかとか、テーピングをどのように巻くかとか、あるいは筋力トレーニングをどのようにするかとか、本学で力を入れようとしているのは、この実習の部分でして、特に怪我をした選手を実際に担当して、そこで怪我をした選手たちを各クラブからお預かりして、最初の応急処置から、競技に復帰させる最終段階のところまでを継続して担当するというような。アメリカで言いますと、インターンシップ制度と言いまして、いわゆる実地訓練ですね。ドクターとタイアップしたり、現場のコーチと話し合ったりするような過程を学んで頂くという。

――スポーツトレーナー、担当する競技によっては、例えば陸上競技、野球、サッカー選手、気をつけなくてはいけないことは違ってくると思うんですけれども。

山本:そうですね。怪我をしているときに、例えば陸上競技の長距離ですと、よく足の甲の骨を疲労骨折したりとか、アキレス腱などをいためて走れなくなったりします。そうしますと、長距離選手は、足の怪我ももちろん治さなければいけないのですが、治さなくては走れませんので、その間に心肺機能、つまり心臓の働きが衰えてしまいます。そうするとケガそのものが治っても、すぐに走り出せないわけです。

 つまり、一番大切な、持久力の部分が衰えていってしまうと、競技に復帰するのが遅れてしまうんですね。そうすると、競技特性を踏まえた形で、怪我をして走れない時期に、走らないでどうやって心臓に負担をかけられるかということを考えていかないといけないんです。

――具体的にはどんなふうにするんですか。

山本:例えば、水泳をして、水の中で体重をかけない状態で、泳ぐことによって負担をかけたりとか、あるいは自転車をこいだりですね。例えば自転車の負荷を、一定のペースで漕ぐだけではなくて、重りをつけた自転車でダッシュをしたり、それを繰り返したり、いわゆるインターバルトレーニングなんて言いますけれども。そういう心臓に負担をかけるようなやり方、テクニックというのはたくさんあるんですね。各競技にそれぞれ必要な体力というのがありますので、それをしっかりと把握をしながらやっていくと。

 最近では競技選手だけではなくて、トレーナーの仕事は人の体という観点では、共通点として発育期の子どもであったり、あるいは中高年者の健康作りという点に十分つながる範囲ですので。

 お年寄りたちが、元気な体で病院通いしなくてすむような健康な体であるためにはどのような点で体力作りをすればいいかとか、もっと言うと例えばダイエットをしたいとかという若い方々、中高年の女性が、どういう運動処方をすれば、あるいは栄養管理をすれば、有効に脂肪を減らすことが出来るか、といったところまで勉強すれば、社会に出るときのニーズが高まるといいますか、将来勉強してきたことを生かせる範囲が非常に広がりますし、そこまでやはりトレーナーは範囲としては幅広いと考えています。

――そうすると、ありとあらゆることを学ばなくてはならないので、学生さんたちも大変だと思いますけれども。

山本:そうですね。身体を勉強して、人の役に立つ、人に尽くす気持ちがまず共通点で。ボランティア精神で、何か人の役に立ちたい、というような気持ちを持っていれば、そういった勉強も逆に言うと、非常につらいとか大変というよりも、非常にやりがいのある勉強として、仕事として出来るんじゃないかなと考えています。

 約8年後に、千葉国体を控えておりまして、また、平成17年には全国高校総体もありますので、そういった面で千葉県内でもそれに向けての競技力向上と医科学サポートとの融合と言いますか、力を入れようと考えていますので、私も協力委員として出来るだけアイデアを出して、どうリンクして、トレーナーが役に立てるかというところを協力しているところです。

――山本先生、ありがとうございました。

山本:こちらこそ、ありがとうございました。


今日はスポーツトレーナーという仕事について、お話は国際武道大学のスポーツトレーナー学科助教授、山本利春さんでした。山本先生ご自身も順天堂大学体育学部を卒業され、世界陸上やライフセービング世界選手権大会の日本代表選手団のトレーナーとしても活躍されました。

以上、学び情報のコーナーでした。