疲れたときは、からだを動かす!

アクティブレストのすすめ

山本利春 著、2006年9月26日発行、1200円+税 岩波書店 ISBN 4-00-001401-3


第1章 理論編

序章 カギは能動性――自分で動くこと

 疲れを取るには動いたほうがいい
 F1カーの技術を大衆車へ
 カギは能動性

第1章 アクティブレストの歴史と背景

1 スポーツ界でアクティブレストが注目される理由

 スポーツトレーニングは疲労との闘い
 疲労は技術の向上をも妨げる
 専門家も存在する領域
 Jリーグの過密スケジュールとアクティブレスト
 他のスポーツでも再注目
 スポーツの高度化とコンディショニング法の進化
 高度化の影で――薬物使用の蔓延
 疲れにくい身体をつくるという発想
 疲れにくい身体とは
 一般人もまったく同じ

2 アクティブレストはどのように取り入れられているか

 最も身近な例は運動後のクーリングダウン
 主運動と同じ運動を軽めに
 試合間にもアクティブレスト
 試合翌日の過ごし方

3 アクティブレストの効果測定

 アクティブレストの有無で疲労度を比較
 疲労の蓄積が緩和された
 シーズンを通してコンディションを維持するために
  コラム プロ・アマ一流チームのアクティブレスト

4 疲労度を測る

 潜在的な疲労をどう見つけるか
 ストレッチングをすすめる理由
 力の立ち上がりが遅くなる
  コラム 身体のキレが悪くなったら要注意

5 疲労回復のメカニズム

 筋肉疲労を示す乳酸という物質
 乳酸が筋肉内で再利用されるシステム
 血液循環がカギ
  コラム お風呂の中でも本来は運動すべき?

第2章 アクティブレストの実際

1 ストレッチング

 ストレッチングの疲労回復力
 ストレッチングの歴史
 ストレッチングが疲労回復を促す理由
 血行促進が凝りを和らげる
 筋肉の緊張を和らげる
 精神的なリラックス効果
 全身プログラムから試してみる
 目的別ストレッチング

2 有酸素運動(ウォーキング、ジョギング)

 有酸素運動は疲労回復の必須アイテム
 健康にいろいろ有益な有酸素運動
 アクティブレスト・ウォーキングのすすめ
 荷物を持たない快感

3 アクティブレスト的入浴法

 入浴の物理的効果
 お風呂で行うアクティブレスト
 入浴後にストレッチングを

4 スポーツ選手のコンディショニング法を応用する

 スポーツ界のテクニックは一般にも応用できる
 アイシングは特別なものではない
 アイシングの効果って?
 炎症を予防する効果も
 アイシングでアクティブレスト
 こんなときはアイシング
 氷さえあれば今すぐにでも
 アイシング後にストレッチングしてみよう
 水中では荷重負担が軽減する
 リラックス&リフレッシュ
 泳げなくても大丈夫

5 マッサージ

 お風呂上がりが最適
 プロに頼む場合も“アクティブ”な態度で

付録 疲れにくい身体をつくる――筋力トレーニングのすすめ

 体力のある人は疲れにくい
 筋力に注目しよう
 どこを鍛えるか

おわりに

 私は仕事柄、スポーツ選手の「身体を作る」「ケガから回復させる」「疲労を除去する」といった身体の機能をよりよい状態にするための方法について、いつも考えています。記録の向上や勝利のためには身体の機能を最高の状態に仕上げないといけませんし、ケガをしやすい状態であれば原因となりうる部位を見つけて改善を図らなければいけないわけです。このような手段をコンディショニングといい、その役割を担う私達はアスレティックトレーナーと呼ばれています。この仕事は車の状態をよりよい状態に仕上げる自動車整備の仕事、メンテナンスにとてもよく似ています。車の構造や特徴を熟知して、様々な工夫を凝らす。人間も同じです。

 いかに質の高い、効率の良いメンテナンスの方法を試みるか? これは車の性能を上げるための技術開発で得られた情報と、現場のユーザーや整備士の実体験から得られた知識が非常に重要となります。スポーツ選手のコンディショニングや疲労回復の方法も同様で、最新のスポーツ医科学の研究結果による情報と、現場の選手や指導者からの経験に裏打ちされた情報が最も有力な情報源となります。

 本書で紹介されている疲労回復法の多くは、スポーツ選手たちや指導者たちが経験的に効果的であることを実感して知らず知らずのうちに採用している方法であったり、その有効性を科学的な観点から検討した実験データをもとに考えられたものです。

 幸い私も、長年現役選手として自分の身体で試してきた経験や、アスレティックトレーナーとして選手の身体のメンテナンスを指導してきた経験、そしてスポーツ医科学の研究者として、その効果が本当かどうか実験で実証してきた経験を持っています。本書を執筆する際にもこれらの経験が大いに役立ったことは言うまでもありません。

 本書のキーワードは「アクティブレスト」=積極的休養です。

 何もしないで休むだけよりも、自ら進んで行動を起こして疲労回復を促進させる試みといえます。疲れていればいるほど動きたくない、何もしないで休みたい、そう思うのが普通ですが、実はそれでは十分に疲労は取れない、身体への積極的な働きかけが疲労回復には有効なのです。

 スポーツ選手にとって、疲労の蓄積は競技能力(勝つため、よい成績を得るための能力)を低下させ、ケガの原因にもなります。ですから、どうしたら疲労を翌日に持ち越さずに次の練習や試合に臨むことができるか?はスポーツ選手にとって重要な命題なのです。

 一流のスポーツ選手たちは、次に身体を使うときのために、最善の準備をしておく習慣があります。試合後のクーリングダウンとしてのジョギングやストレッチング、野球の投手の肩へのアイシングもその一例です。スポーツ医学、スポーツ科学の普及により、選手や指導者の間には合理的な身体のメンテナンス法に対する考え方がかなり定着してきています。その具体的手段の一つがアクティブレストです。

 疲れた身体をいかに早く効率よくリフレッシュさせるか、という考え方や方法はスポーツ選手も一般の人も同じです。本書では、身体のメンテナンスに特別な配慮を施しているスポーツ選手の疲労回復術を一般の方々の疲労回復に応用できるように、できるだけ簡素化し、日常生活にも取り入れられるようにアレンジしてみました。実施していただいたなら、きっと予想以上の効果を実感できると思います。

 疲れた身体のメンテナンス法を覚えて、自分の身体を自分で管理できる術(自己管理能力)を身につけましょう。それがあなたにとって、よい仕事をすること、快適な日常生活を送ること、いつまでも健康でいられることに必ずつながるはずです。

 最後に本書を出版するにあたり、多大なご協力をいただいた皆様に心より感謝いたします。特に、今回の出版企画の提案をしてくださった岩波書店編集部の山本慎一さん、長年に渡り私のパートナーとして編集の仕事を手伝ってくださっている宮村淳さんにはこの場を借りて深く御礼を申しあげます。

2006年9月  著者 山本利春