スポーツアイシング
山本利春、吉永孝徳 著、2001年5月1日発行、1800円+税 大修館書店 ISBN 4-469-26464-4


第1章 アイシングとは何か 
第2章 アイシングの科学 
第3章 アイシングの実際 

はじめに
 スポーツ現場での医療体制がまだそれほど整っていなかった一昔前、主にラグビーなどの試合場で“魔法の水”がもてはやされました。相手選手と激しくぶつかるプレーの多いラグビーでは、試合中、頻繁に選手が倒れます。脳しんとうなどを起こして一時的に意識を失いかけた選手に、やかんに入った水を一気にかけると選手が目を覚まして立ち上がり、プレーを再開する。水が気付け薬のように効いて、ほとんどの選手は面白いように回復するので、“魔法の水”と形容されて盛んにこれが使われていました。
 現場での医療体制が見直されるにつれ、さすがにこのような荒療治は姿を消し、やかんの水は救急箱に変わり、やかんを持って走っていた控え選手は、ドクターやトレーナーに変わりました。魔法の水伝説は終わったのです。
 魔法の水は姿を消しても、それよりはるかに利用価値の高い道具があります。それは“氷”であり、誰にでも簡単に手に入るこの氷を上手に用いれば、スポーツする人は実にいろいろな恩恵を得ることができます。試合や練習中に起きたけがの応急処置、さらにそのけがから復帰するためのリハビリ、慢性的な痛みの緩和と予防、疲労回復、ウォーミングアップの補助的手段、試合後のクーリングダウン…等々。スポーツ選手にとってまさに“魔法の氷”となり、その応用範囲は多岐にわたります。
 その“魔法の氷”(または氷に準ずる冷却用具)を用いた様々なスポーツ医学的テクニックを総称して“アイシング”と呼びます。アイシングは、テレビのスポーツ中継などを通じてその存在は広く知られるところとなりましたが、正しいテクニックや理論的背景については、まだ十分に普及してはいません。スポーツを愛する人々に、アイシングを通じてより安全に、より効率よく、そしてより楽しくプレーしていただくために、この本は企画されました。一通り読んでいただければ、アイシングの基本と概要がつかめるようにまとめられています。アイシングをもっと身近にして、よりよいスポーツライフを送っていただければ幸いです。
 最後に本書を出版するにあたり、多大なご協力を頂いた宮村淳さん、大修館書店編集部の綾部健三さんをはじめ多くの皆様に心より感謝いたします。

 2001年3月吉日
山本利春、吉永孝徳