はじめに
スポーツ選手のコンディショニングを行っていくうえで、「測定と評価」をどのように役立てるかというテーマは、現実的ではあるが意外に取り上げられていない感が強い。例えばスポーツ選手の体力テストに関しても、未だに古くから行われていた一般的なスポーツテストにゆだねてしまう場合が多い。競技力向上のためのトレーニング処方や能力判定をねらいとするならば、各スポーツ種目のもつ競技特性を踏まえ、スポーツパフォーマンスにつながる体力要素の項目を選択していく必要がある。また、スポーツ種目の特性に応じた傷害発生原因との関連性で評価できる内容を選考する必要がある。
このように、しっかりとした科学的根拠をもった方法を、スポーツの現場に普及させることが重要であり、そのためには科学的な観点からコンディショニングを追及し、より実践的で現場に役立つ研究の成果をスポーツ現場にフィードバックしていくことが急務であると思われる。
本書は、上記のようなスポーツ現場のニーズを踏まえ、スポーツ選手を中心とした現場におけるコンディショニングに役立つ情報を提供することを目的として月刊トレーニング・ジャーナル誌上で約4年半にわたり隔月連載したものを再編集してまとめたものである。
連載期間中、私の記事の内容に対して読者の方々から前向きなご意見を多数いただいた。現場のトレーナーやコーチの方からは「さっそく試してみた」「私も同様なことをやっていたので自信が持てた」「選手を教育する際のネタにしています」など、学生トレーナーからは「卒論のテーマにして同様な実験をやってみました」「勉強会の資料に使っています」などである。測定方法や実践的研究結果などについて、熱く論じ合ったこともあった。
私の考え方やデータ(情報)、アイデアなどに興味を持ち、それらを現場で実践的に活用していただけることは、非常に大きな喜びであり励ましでもあった。
トレーナーとして現場に密接に関わる研究者として、多くの実践的な研究情報や科学的裏付けを「現場からの肉声」を常に意識しながら、できるだけわかりやすく伝えていく仕事が私にとっての1つの「トレーナー活動」であると信じている。
本書は、第1章から第6章ではコンディショニング評価のための測定方法や留意点に関する内容が中心となっており、第7章と第8章では測定データに基づいた新たなテストおよび評価の方法などの提案や、現場で用いられているコンディショニング法の理論的裏付けなどの内容を列挙してみた。また付章では現場での応用例として我々が行っているスポーツ選手に対する運動機能チェックや測定データのフィードバックの内容について紹介した。各章ごとにそれぞれのテーマで解説しているので、各章どこからでも興味のあるところから必要に応じて読んで頂いて結構である。
本書がスポーツに携わる指導者(トレーナー、コーチ、医療関係者等)、選手、科学者を始め、健康づくりやリハビリテーションに関わる人たちに至るまで広く活用していただければ幸いである。
山本利春
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