【著者】マイケル J.オルター、【監訳者】山本利春、【訳者】伊藤マモル・岩本紗由美・笠原政志・川上泰雄・小柳好生・杉山ちなみ・佃文子・鶴池柾叡・長畑芳仁・藤井均・町田修一、2010年2月10日発行、4,800円+税 大修館書店 ISBN 978-4-496-26694-8
第 1 章 柔軟性とストレッチングの現代的概観
第 2 章 骨学と関節学の一般的原則
第 3 章 筋収縮に関わる構成要素:柔軟性を制限する因子
第 4 章 結合組織:柔軟性を制限する因子
第 5 章 軟組織の機械的・動的特性
第 6 章 柔軟性の神経科学
第 7 章 関節の過度可動性
第 8 章 リラクゼーション
第 9 章 筋の傷害と筋肉痛:原因と結果
第10章 柔軟性に関連する特殊な要素
第11章 柔軟性を高める上での社会的促進と心理状態
第12章 ストレッチングの諸概念
第13章 ストレッチングのタイプと種類
第14章 ストレッチングについての議論とストレッチ論争
第15章 特定の集団に対するストレッチング
第16章 下肢と骨盤帯の解剖学的構造と柔軟性
第17章 脊柱の解剖学的構造と柔軟性
第18章 上肢の解剖学的構造と柔軟性
第19章 ストレッチングと柔軟性の機能的側面
付 章 ストレッチングエクササイズ
赤字は山本担当分。
身体の柔軟性は、スポーツパフォーマンスの向上や傷害予防、あるいは健康づくりを目的として、身体をより好ましい状態に改善する働きかけをする際の不可欠な要素として取り上げられている。近年、柔軟性を改善するアプローチのひとつであるストレッチングに関する書物は数多く出版され、未だにその数は増え続けている。しかしながら、それらを適切に活用するためのベースとして最も重要な要素である柔軟性を、より専門的に、かつ多角的にとらえて解説した書物は極めて少ない。柔軟性は、筋力と同様に重要な体力要素とされながらも、その基礎科学的な研究や具体的な実践方法の臨床的な研究は、筋力のそれに比べると明らかに立ち遅れている。それゆえか、柔軟性という言葉は誰もが知っているキーワードでありながら、そのとらえかたは人によってまちまちである。
柔軟性を改善するためには、筋力強化のアプローチと同様に、多くの研究成果の科学的な知見から得られた理論に基づき、ヒトの身体のしくみを理解した上で、目的に合った方法を選び、的確でより効果的な内容を処方することが必要である。
これまで、特にストレッチングや関節可動域訓練の処方に関連して、身体の機能解剖的な視点から柔軟性に関する知識を整理する専門書や記述は多々あった。しかしながら、柔軟性を左右する要因は何か?身体が柔軟になると何がどう変わるのか?どのような柔軟性改善方法がどの程度効果があるのか?について筋生理、神経生理、関節構造、障害組織の特性、競技・運動方法の特性などの多角的側面から論考したものはなかった。 本書『柔軟性の科学』は、柔軟性について、多くの研究者が多方面から取り組んできた成果を、膨大な論文の中から適切に選び出して整理し、紹介している。柔軟性を基礎科学的にも臨床的にも様々な視点から解明し、各部位ごとの構造や柔軟性獲得法、傷害への対処法など応用的な面も含め、理論とエビデンスを、豊富な図や写真と共に総合的にまとめている。
何より本書に驚かされるのは、巻末に記載されている2,100にもわたる膨大な引用文献である。各章の本文には、その記述内容の根拠となる文献の著者名と発行年が各所に記載されており、内容の裏付けとなる理論や研究論文、関連書籍などを見つけることができる。本書の柔軟性に関する内容に興味を持ち、その根拠を記載した文献を読んで、さらに詳しく調べたい場合には大変役に立つ情報源である。柔軟性に関連する研究を行う科学研究者や大学院生には、うってつけの専門書である。
したがって、本書は柔軟性に関する多くの知見を網羅しており、基礎から応用まで多くの文献に基づいて記載された、これまでにない書であると確信している。柔軟性に興味を持つ研究者、指導者、あるいは柔軟性改善のアプローチを職務とする理学療法士やトレーナーにとって、柔軟性に関するバイブルともいえる本書が翻訳出版される意義は大きいと思われる。
本書が上記の多くの人々に広く活用され、傷害予防、競技力向上、健康づくり、リハビリテーションなどの知識や技術を普及させる一助になることを期待したい。
本書の出版にあたり、翻訳に関しては多くの専門家の方々にご協力を頂いた。特に編集作業では編集部の太田明夫氏、今井拠子氏の長期間にわたる多大なご尽力によって本書が刊行されることが可能となったといっても過言ではない。この場をお借りして心より感謝の意を表したい。
2009年12月
国際武道大学 体育学部スポーツトレーナー学科教授
山本利春