スポーツ指導者のためのコンディショニングの基礎知識

山本利春 著、2010年12月発行、1,575円 大修館書店  ISBN 9784469267075

第1章 ケガの対応と救命処置

  1.スポーツ傷害時におけるアイシングの有効活用
  2.「たかが捻挫」の考え方を正す
  3.テーピングの正しい利用法
  4.覚えておきたい救命処置法

第2章 傷害予防のポイント

  1.スポーツ傷害の発生要因と予防対策
  2.膝の傷害予防と脚筋力強化の重要性
  3.発育期特有のオスグッド病のメカニズムと予防
  4.腰痛のメカニズムと予防
  5.アライメント(骨形態)とスポーツ傷害
  6.肩関節傷害の予防
  7.肉離れの予防

第3章 知っておきたいコンディショニングの知識

  1.スポーツ選手の受験前後の過ごし方
  2.ストレッチングの目的と留意点
  3.スポーツマッサージの目的と留意点
  4.体重が重いことが必ずしも肥満ではない
  5.スポーツ活動中の水分摂取の重要性
  6.筋肉痛の対処法

第4章 トレーニングの基礎知識

  1.トレーニング効果を高めるための基本理論
  2.ウォーミングアップとクーリングダウンの留意点
  3.体力測定を見直す
  4.ケガを予防するための補強トレーニング
  5.トレーニング効果を引き出す身体のアフターケア
  6.ケガをしたときの練習メニュー

第5章 指導者に求められる専門性と選手の自己管理教育

  1.自己管理の重要性
  2.サポーターの賢い使い方
  3.医療機関の選び方
  4.トレーナーの役割と選手の教育

付録:アイシング/RICE処置/足首捻挫の正しい対処法/テーピング/心肺蘇生法/膝の傷害予防/オス    グッド病の予防/腰痛の予防/肩の傷害予防/肉離れの予防/ストレッチング/スポーツマッサージ


はじめに

スポーツ指導者に考えてほしいこと

1.安全なスポーツ指導
スポーツの指導は薬の処方と同様で、適切に行われないと、個人やチームの競技パフォーマンスの低下を招いたり、良好な競技成績や結果などにつながりません。さらに、選手の体調を崩すことになったり、ケガの原因やその再発を引き起こす恐れもあります。大きなケガをしたり、ケガの再発を繰り返したりしてしまうと、最悪な場合、指導する選手の今後のスポーツ生命を脅かす事態を招くことになったり、今後の生き方までを左右することもあります。スポーツ指導者が正しい知識に基づいてトレーニングやコンディショニングを行わなければならないのは、そういった大きな責任を背負っているからなのです。
学校現場でのスポーツ活動の現状をみると、中学校や高等学校の部活動などでは、昔そのスポーツ種目を行ったことがあったり、ルールを少し知っているという教員が顧問や監督を任されてしまうといった実情もあります。体育科教員のように、必ずしもスポーツの指導を専門に学んできた人だけが担当するわけではないことから、経験だけに頼ったり、手探りで適切でない指導が行われてしまうといったケースも多いようです。しかし、そのスポーツ種目の専門知識やルールに詳しくなくても、ケガの応急処置方法やケガをしにくい身体つくりの指導方法などを身につけることは、安全なスポーツ指導にとっては大切なことなのです。そして、これらのことは、学校現場だけでなく、地域のスポーツ指導においても全く同様です。

2.選手に合わせた目標の設定
スポーツ指導者にとって大切な役割のひとつに、選手個人個人のスポーツ特性や才能、体力レベルを見極めながら、何を目標に設定するか、常に考えることがあります。競技スポーツにおいては、どのレベルの大会で金メダルを獲得するのかを見極めることです。オリンピックや世界選手権など世界の頂点を目指すのか? それとも全日本大会や国民体育大会で日本一を目指すのか? 目の前に迫っている都道府県の大会なのか? インターハイ(全国高等学校体育大会)なのか? 全国中学校大会なのか? 選手が思い描く将来の展望や、希望する進路も含め長期的な目標設定を行うこと、体力レベルに応じてそれを変更することは、選手の体力や技術の習得状況によって段階的に目標を設定することなどが重要です。
目標に近づいたり達成できた満足感を得ることは、スポーツの大きな魅力のひとつです。自己記録を更新したりパフォーマンスの向上を果たしたり、設定した目標を超えられれば、努力が報われることの喜びを知ることができます。選手個々で目標の設定が違うことから、指導者の役割が決してトップアスリートを育成するだけではないことも忘れてはいけません。
スポーツは長い年月にわたって継続されていくものが多く、今すぐに選手や指導者が思い描く結果が出せなくても、トレーニングを重ねていくことで、体力を向上させ競技力の才能をより開花させていくものです。特に学校教育ではほとんどの中学校、高等学校で在学期間が3年間ずつであるということも、3年間での成果を期待し過ぎて無理をさせてしまうことにつながります。才能を秘めていたり、期待のできそうな選手ほど将来の展望を計りながら、次につながるように慌てず粘り強く指導に携わることも大切になります。
以上のことから、身体のつくりや各部位の動きのしくみ、ケガの応急処置の方法、トレーニングの理論と方法など、スポーツ指導に共通する最低限の基礎知識を身につけ、選手の可能性を理解して指導することは、スポーツ指導者にとって重要なことであるといえます。


あとがき
 スポーツ選手(アスリート)が最高のパフォーマンス(競技力)を発揮するためには、選手の体力や技術をいっそう高め、ケガをより少なくするための体づくりやメンテナンス、すなわちコンディショニングが重要です。近年、それらのアプローチを医科学的あるいは科学的にサポートする役割としてアスレティックトレーナーの存在が注目されています。一流選手が活躍する陰には、アスレティックトレーナーのようなコンディショニングの専門家の存在があり、そのアドバイスが大きく影響していることも少なくありません。
 しかし、学校現場や地域のスポーツ指導に、アスレティックトレーナーが関わることはまだまだ少ない状況です。特に小学校、中学校の部活動の現場には、十分な身体の知識をもたない(運動指導の教育や研修を受けていない)指導者しか存在しないことも多いようです。
 スポーツの指導を担うことは、選手個人やチームの競技成績の向上を目指すだけではなく、選手のスポーツ生命や今後の生き方に関わる責任を背負うことになります。また、選手自身に自己管理の大切さを気づかせ、正しいコンディショニング方法を習得させ、自己管理のできる選手に育てることも指導者として重要なことなのです。
それゆえに、指導者の方々には、正しいコンディショニングの基礎知識を学んだ上で、指導に当たるように心掛けていただきたいと思います。本書は、そんな願いを持って、すべての学校現場や地域でのスポーツ指導に関わる方々に読んでいただくことを意識して書いた本です。そういった多くの方々に広く活用していただければ幸いです。
 本書を出版するにあたり、多くのご協力をいただきました。中学生の部活動の指導されている体育教師、養護教諭として小学生の指導をされている先生にもアドバイスをいただき大変参考になりました。ご協力をいただいた方々に心より感謝いたします。
 また、本書の編集をご担当いただいた太田明夫氏、今井拠子氏の両名には多大なご尽力をいただきました。この場をお借りして御礼申し上げます。

2010年10月
著者 山本 利春


赤字は山本担当分。