監訳者まえがき
「柔軟性」は、スポーツパフォーマンスとの関連でも、障害予防や健康づくりとの関連でも必ずといっていいほど、考慮すべき要因として挙げられている。しかしながら、本邦では、柔軟性を改善するアプローチであるストレッチングに関する書物は数え切れないほど出されているが、この「柔軟性」という言葉を専門的に取り上げて解説された書物は見あたらない。また、「柔軟性」は、「筋力」と同様に重要な体力要素とされながらも、トレーニングに関連する科学的研究や合理的な実践方法の普及は、「筋力」のそれと比べると明らかに立ち遅れている。それゆえか「柔軟性」という言葉は誰もが知っているキーワードでありながら、その捉え方は人によってまちまちである。
柔軟性トレーニングを実践するためには、筋力トレーニングと同様にトレーニングの科学的な理論に基づき、ヒトの身体のしくみを理解した上で、目的に合った方法を選んで「柔軟性」を改善する的確なトレーニングを処方することが必要である。
そのためには、特に柔軟性と関わりの深い筋や、関節の構造と機能を知り、柔軟性を左右する要因は何か? 身体が柔軟になると何がどう変わるのか? どこをどのようにいつごろ行ったらよいのか? などの身体の機能解剖的な知識を踏まえた上で実施することが重要である。
本書は、第一部では柔軟性トレーニングの理論的な裏付け、第二部ではストレッチングを中心とした柔軟性トレーニングの実際が盛り込まれており、まさしく柔軟性を取り巻く様々な要素や、より有効に柔軟性を改善するための方法と科学的裏付けを理解するための画期的な参考書となっている。
本書がスポーツに携わる指導者、選手、愛好家、科学者をはじめ、健康づくりやリハビリテーションに関わる人たちに至るまで、より多くの人々に広く活用されることを願っている。
1999年5月12日
山本利春
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