訳者序(p.iii より抜粋)
水を用いた治療は古くから世界中で行われてきている。現在のように優れた治療機器やトレーニングマシーンが普及していない当時は、水の様々な特性を活かして工夫をこらしながら利用していたに違いない。水を用いた治療は、それほど古くから使われていた方法でありながら、いまだ、未開拓な部分が多いと思える。現代は「ソフトの時代」といわれるように、よい資材をどう使いこなすかが求められる。近代的な治療機器のみにたよったり、パターン化された治療方法のみを行うリハビリテーションの流れを見直し、むしろ水のように多くの潜在的な機能を持った媒体の利点に注目して、陸上での運動や既存の治療機器では得られない効果を引き出すことも必要である。
水の代表的な特性である浮力や抵抗も、使い方次第で優れた筋力トレーニングやリラクゼーション、疲労回復などの効果が期待できるパーツになりうる。運動処方全般にいえることだが、薬の処方と同じように使い方(薬でいえば、量、頻度、時期など)を誤れば効果が期待できないどころか害を及ぼすことになる。水中での運動処方を効果的に行うためには、水そのものの性質はもちろん、水と運動、水と身体との関係を知ったうえで、より効果的な活用方法を工夫することが望ましい。
本書の特徴は、アクアティックエクササイズをプログラムするための基本的な理論を整理し、各疾患にどのように応用可能かが明確に示されていることであろう。とくに後半では、身体各部位における機能解剖と評価法を整理した上で、よく見られる整形外科的疾患の症状の解説がなされ、その症状に対するアクアティックリハビリテーションの適応を示し、具体的なエクササイズを豊富に紹介するという、非常にバランスよく構成されていることに驚く。
本書の原書タイトルは「AQUATIC EXERCISE THERAPY」であり、直訳すれば「水中運動療法」であるが、前半の4章までの基礎理論部分移行はすべて「AQUATIC
REHABIRITATION」という表現で整形外科的な疾患に対する機能的アプローチが中心となっているため、本書のタイトルも「アクアティックリハビリテーション」とした。
「アクア(水)」を「リハビリ」にどう応用するかを正しく理解するためのガイドブックとして、本書が水に関わるあらゆる職種の人たち、そして運動療法やリハビリテーション、コンディショニングに関わる人たちにいたるまで、より多くの人々に広く活用されることを願っている。おそらく、読者のそれぞれの立場からみても、本書から新たな発見と治療のアイデアがわいてくるものと信じている。
最後に、本書の翻訳にあたり、ご協力くださった平野 泉さん、東山 真氏に感謝したい。
2000年5月
山本利春
日暮 清
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