CKCエクササイズ
―障害予防とリコンディショニングのための多関節運動の理論と応用―
山本利春 中村千秋 監訳、渡部賢一 小柳好生 訳、2003年4月15日発行、3000円+税 ナップ ISBN 4-931411-33-9


第1章 重要な概念と基本的な用語の説明
第2章 CKCエクササイズのバイオメカニクスと生理学
第3章 キネティックリンク理論
第4章 キネティックチェーン・エクササイズ:オープンとクローズドの比較
第5章 下肢のリハビリテーションとコンディショニングのためのCKCエクササイズ
第6章 上肢のリハビリテーションとコンディショニングのためのCKCエクササイズ
第7章 下肢のCKCエクササイズの実際
第8章 上肢のCKCエクササイズの実際
文献
索引

原題:Closed kinetic chain exercise: a comprehensive guide to multiple-joint exercise
原著者:Todd S. Ellenbecker, George J. Davies

訳者序文(p.iii より抜粋)

 近年、整形外科領域でのリハビリテーションにおいてClosed Kinetic Chain (CKC)エクササイズが応用されることが多くなった。その理由として、1990年代から、膝前十字靭帯の再建術後のリハビリテーションに関する研究において、CKCエクササイズは再建靭帯にかかる負荷がOpen Kinetic Chain (OKC)でのエクササイズよりも小さいという研究結果が注目されたことが挙げられよう。この知見は、従来術後早期には禁忌とされていた荷重負荷エクササイズがOKCでのエクササイズよりもリスクが少ないという衝撃的な展開となり、関節固有受容器への刺激、複合関節運動としての運動連鎖の学習などの利点をあわせもつエクササイズを術後早期に利用できるという合理性がまたたく間に現場に受け入れられていった。しかしながら、CKCのもつ特異性やOKCとの類似性など、CKCに関する特徴を正しく理解して応用している現場の指導者は少ない。すでにその効果を実感していたり、有効性は認めていても、OKCとの使い分けや適応についての根拠に乏しかった。

 そのような意味で考えると、本書はCKCを応用するものにとっては待望の参考書といえるかもしれない。これまで十分な解説が示されなかったCKCの概念やバイオメカニクス的基礎、OKCとの比較など、豊富な科学的知見を示しての解説は説得力があり、研究報告、事例報告など、実際のリハビリテーションやトレーニングを処方するためのガイドラインとなるような、指導するうえですぐに役立つ情報が満載されている。とくに上肢のCKCエクササイズについては日本ではまだ認識が浅く、新鮮な情報として興味深い。

 本書の前半はCKCエクササイズの基礎理論、OKCエクササイズとの比較を中心に解説されている。また後半では、CKCエクササイズをリハビリテーションやコンディショニングにどのように応用するかについての考え方を、さらに終盤の7章、8章では上肢と下肢における具体的なCKCエクササイズが紹介されている。なかでも興味深いのは、CKCのファンクショナルテストである。CKCエクササイズの適応を評価したり、トレーニング効果を判定するうえで有効な情報収集の手段になると思われる。

 本書は、単なる理論的な解説書でなく、また手技・技術紹介のみの本でもなく、CKCエクササイズに関する科学的根拠と実際の応用方法を融合した大変有意義な専門書といえる。

 本書がリハビリテーション、リコンディショニング、体力強化などの分野に関わるトレーナー、理学療法士、ドクター、ストレングスコーチの方々に役立つ書となれば幸いである。

2003年4月

訳者代表 山本利春