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内容は、掲載当時(2008年)のものであり、現在の状況とは異なる場合もありますので、あらかじめご了承ください。

・千葉県におけるアスレティックトレーナーのスポーツ医科学サポート活動
第18回日本臨床スポーツ医学会学術集会
コメディカル・シンポジウム:地域におけるトレーナー制度の現状
山本利春(国際武道大学)、矢後和夫(鍋島整形外科病院)、岡田 亨(船橋整形外科病院)、橋川拓史(北千葉整形外科病院)、中島幸則(帝京大学)、笠原政志(国際武道大学)

第18回日本臨床スポーツ医学会学術集会
コメディカル・シンポジウム:地域におけるトレーナー制度の現状

千葉県におけるアスレティックトレーナーのスポーツ医科学サポート活動

Sports medicine and science support system on athletic trainers in Chiba Pref.

山本利春(国際武道大学)、矢後和夫(鍋島整形外科病院)、岡田 亨(船橋整形外科病院)、橋川拓史(北千葉整形外科病院)、中島幸則(帝京大学)、笠原政志(国際武道大学)

キー・ワード:athletic trainer、sports medicine and science support system、Chiba Pref.
アスレティックトレーナー、スポーツ医科学サポートシステム、千葉県

[要旨]千葉県では、2010年に行われる千葉国体に向けて、特にジュニア選手におけるスポーツ医科学サポート事業を進めている。我々はアスレティックトレーナーの立場から、そのサポートシステムに協力するため、県内のアスレティックトレーナーを組織化した。選手の医科学サポートでは、特に選手教育をコンセプトとして、選手のフィジカルチェック、試合や合宿時のコンディショニングサポートを行っている。2010年の千葉国体では、全ての競技会場にトレーナーステーションを設置し、県内の選手のみでなく全ての参加選手に対して、充実した救護活動及び医科学サポートが行えるトレーナー活動を実現したいと考えている。そのためには、より多くのアスレティックトレーナーが必要であるため、千葉県独自の養成講習会実施しており、その修了者も約400名にも及ぶ。さらに、これらのスポーツ医科学サポート体制の構築が、国体終了後も継続して機能していくように、県内のネットワークを強化し、トレーナーの認知度を高めながら、選手のサポートと教育を充実させていきたい。

●はじめに

 2010年に千葉県において開催される千葉国体に向けて、県に競技力向上の推進本部が設置され、選手強化のための本格的なサポート事業がスタートした.

 選手が競技力向上を目指す上では、傷害予防、健康管理などのスポーツ医科学サポートが重要であり、我々はアスレティックトレーナーの立場からそのサポートシステムに協力するために県内のアスレティックトレーナーを組織化し、千葉県アスレティックトレーナー協議会を結成して県が推進する医科学事業に携わってきた。

本報では、千葉県におけるアスレティックトレーナーの活動の現状と、本協議会が進めてきた国体支援を中心とした活動の内容とシステムの概要について報告する。

●アスレティックトレーナーの役割に関する事前共通理解

 千葉県に限らず各地域における選手の医科学サポート活動をする際に問題となるのは、選手やチームのコンディショニングをどのようにサポートするかの考えや取り組み方が、トレーナーと称して関わる方々や指導者の方々の職域や考え方によって様々であり、それによってアスレティックトレーナーの役割や活動範囲が大きく異なるという点である。

 選手を取り巻くスポーツ医科学サポートスタッフは様々な人によって構成される。アスレティックトレーナーは、様々な専門分野の人たちと協力しながら選手に関わっていくことになるが、選手に対してどのような役割を果たすべきかを共通認識しておく必要がある。日本体育協会公認アスレティックトレーナーの役割にも示されているように、アスレティックトレーナーはマッサージやテーピングを施すのみの役割ではなく、医学的診断・治療を行う医師と、技術面・戦術面の指導を担うコーチとの間を取りもつパイプ役となり、スポーツ選手の傷害予防、救急処置、アスレティックリハビリテーション、コンディショニング等を担当するとされる。

 その中でも特に、アスレティックトレーナーならではの役割として、選手のコンディションを最良にするための環境を作るコーディネーターとして、スポーツ現場とのパイプ役となり、傷害予防のためのコンディショニングアプローチを施し、選手が自ら自身のコンディションを管理できるように教育することであると思われる。

 従来のトレーナーの選手への関わりは、合宿や試合時のマッサージやテーピング、応急処置が中心であった傾向がある。しかし、トレーナーは本来Trainする、すなわち教育、指導する人であり選手の教育をすることが重要な役割であると考える事が出来る。

●千葉県におけるスポーツ医科学サポートの試み

 これらのことを踏まえ、4年前に国体に向けての県の競技力向上を図るための方策として、県内のジュニア選手を中心とした医科学サポートを実施する方針が出されたことを機に、その内容を選手教育のコンセプトにしたものにしようと考えた。千葉県の将来を担うジュニア期の選手に対するスポーツ医科学サポートは、数年先の国体を見据えた選手育成、あるいはその後の千葉県内におけるスポーツ医科学サポートシステムの定着、普及を考えても重要であると思われる。

 現在、我々が携わっている千葉県の競技力向上推進事業は「スポーツ選手医科学相談事業」という名称になっており、ジュニア選手を対象とした事業は、県代表チームの強化合宿や試合に帯同して応急処置やテーピングなどのコンディショニングを行う「トレーナー派遣」と、強化選手の運動機能評価、いわゆる体力測定やコンディショニング指導などを行う「フィジカルチェック・相談」の2つがある。

 「トレーナー派遣事業」では、強化合宿や試合時の応急処置、テーピング、ストレッチング、マッサージなどのコンディショニングのサポートを行っている(図1)。これらのアスレティックトレーナーとしての選手へのサポートは大変重要であるが、ジュニア期の選手に対して過度なケアは自己管理能力の低下につながる可能性もあり注意が必要と思われる。特に、ジュニア期に正しいトレーニングの方法や応急処置の方法について理解し、自分の身体に常に興味を持ち、日常のコンディショニングが適切にできる「自己管理能力」の高い選手を育成することが重要であると考えられる。

 そこで、このような点を配慮した上で検討を加えた事業が、選手の「フィジカルチェック・相談事業」である。他県でも体力測定を行うところはあると思われるが、それだけにとどまらず、栄養相談・傷害相談をからめて、トレーナー・栄養士による測定後のフィードバックに重点を置いて実施している。特に栄養相談・傷害相談に関してできるだけ保護者も同席してもらい、話を聞いてもらうように努めている(図2)。

 従来の国体におけるトレーナーとしての関わりの特徴は、多くの場合、各所属チームから優れた選手が県の代表として選ばれ、合宿や試合に集められた即席チームであるため、トレーナーは合宿や試合のみのスポットでのサポートとなってしまうことである。我々はこの欠点を補うために、トレーナーが従来のように合宿・試合に帯同してスポットでサポートするだけでなく、合宿や試合前に選手の体力測定やコンディショニングチェックなどを行うシステム(国体支援トレーナー)を作った。このシステムにより、国体支援トレーナーは選手の身体情報を得た上で関わることで、合宿や試合時により的確な指導が可能となり、事前に面識があるということで選手とコミュニケーションが取りやすくなると考えられる。

 傷害予防と競技力向上のためのフィジカルチェックである体力測定の内容決定においては、測定データを現場に活かすことを主眼とし、競技に必要な身体能力としての専門的体力を踏まえた内容と、傷害予防に役立つような傷害発生要因と関わりのある身体機能に関する内容について実施している(図3)。測定データはジュニア選手や現場の指導者がより分かりやすく、具体的になるよう工夫し、即日フィードバックを心がけて行っている。

トレーナー派遣(チーム帯同)
図1 トレーナー派遣(チーム帯同)

図2.ジュニア選手の体力測定・相談
図2 ジュニア選手の体力測定・相談

 測定後には各自のデータについての解説と国体支援トレーナーによる傷害予防のためのコンディショニングセミナーを行い、自分自身のコンディショニングの課題や具体的な方法などの指導を行っている。これはジュニア選手の知的トレーニングの機会として絶好のチャンスと考えている。特に、ジュニア期に誤ったトレーニングの方法や応急処置の方法について理解し、自分の身体に常に関心を持ち、日常のコンディショニングが適切にできる自己管理能力の高い選手を育成することが重要であると考える(図4)。


図3 傷害予防と競技力向上のためのフィジカルチェック


図4 コンディショニングセミナー

●2010年千葉国体にむけて

 今後、2年後とせまった千葉国体に合わせ、このようなスポーツ医科学サポートをジュニアのみならずシニアにも可能な限り広げ、選手教育をコンセプトとしたスポーツ医科学サポート活動をより充実させていきたいと考える。現在のところ、全ての競技種目の代表チームに国体支援トレーナーが派遣されているわけではないため、より多くの競技の代表チームに国体支援トレーナーが帯同できる体制を図りたいと考えている。

 また、2010年の千葉国体では全ての競技会場にトレーナーステーションを設置し、県内の選手のみでなく全ての参加選手の救護を中心としたトレーナー活動を実施することを実現したいと考えている。現在、このトレーナーステーションをドクターの常駐する医務室とリンクさせ、ドクターの救護活動を国体支援トレーナーがサポートできる独自の体制を千葉県内のスポーツドクターの方々と検討している。これが実現すれば、本邦初の大規模な安全体制の実現となるため、国体の救急体制のモデルケースとなると思われる。

●国体支援トレーナー養成事業

 これらの体制を実現するためには、莫大な数の国体支援トレーナーが必要となる(競技種目数37競技、代表チームへの帯同を各1名としても成年男女・少年男女全4チームで約150名、各競技会場のトレーナーステーションに仮に各4名としても競技会場73ヶ所で約300名が必要)。少なくとも国体2年前の本年には、その協力者を確保し実務的な選手のサポートをスタートさせなければならないと考えられる。しかしながら、トレーナー活動に興味を持ち、国体支援トレーナーとして協力したいと希望する方々は、様々な職業の方々が、それぞれの志向で選手に関わってしまう恐れがあるため、前述のアスレティックトレーナーの役割をふまえ、国体支援トレーナーとしての共通の認識と理解を得た上で活動に参加していただくことを目的に養成講習会において必要なコンセプトを十分に伝えた上で、国体支援トレーナーとして登録するというシステムとした(図5)。

 国体支援トレーナー養成講習会は、基礎カリキュラム・専門カリキュラム・研修会という流れとなる(図6)。基礎カリキュラム(図7)では、トレーナーとして不可欠な基本的なトレーナーとしての知識を中心に5科目10時間。これらの科目は日本体育協会公認アスレティックトレーナー養成講習会、あるいはそれに準じたカリキュラム修了者は一部免除としているが、国体支援トレーナーとしての活動コンセプトや、フィジカルテストを用いたフィードバックなど、国体支援トレーナーとして最低限必要な内容については必須になってくる。 

 専門カリキュラム(図8)では、主に国体支援トレーナーとしてチームに帯同する活動、あるいは競技会でのトレーナーステーション活動を行うことのできるトレーナーに必要な能力を中心に5科目10時間を講習した。基礎カリキュラムと専門カリキュラムを修了した方には修了証を発行し、国体支援トレーナーとして登録される。 現在、この養成講習会を326名が修了し、国体支援トレーナーとして登録している。

 さらに、登録トレーナーを対象にスキルアップするための場が研修会である。研修会では、現場の活動報告や事例報告、あるいは現場での活動に直結する実践的なテーピングやアスレティックリハビリテーション、救急法などの実習などをスキルアップとして行う。平成18年度は、第1回「ドクターとトレーナーの連携」「スポーツにおける内科的疾患の対処と予防」、第2回「国体帯同トレーナー報告(サッカー、テニス)」「アスレティックリハビリテーション」、第3回「種目特性を考慮したテーピング」の3回の研修会を実施し、平成19年度は、第1回「心肺蘇生法」、第2回「アンチドーピング講習会」、また第3回には、実践的な救急法シミュレーション講習(図11)として「スポーツ現場における救急処置」も行った。


図5 国体支援トレーナーとしてコンセンサスを得るための講習会の位置づけ


図6 千葉県アスレティックトレーナー養成講習会


図7 基礎カリキュラム(10時間)


図8 専門カリキュラム(10時間)


図9 スポーツ現場における救急処置(実習)の講習会風景

 現在国体支援トレーナーとして登録している326名の資格の内訳は、柔道整復師が123名、理学療法士93名と多く、日本体育協会公認アスレティックトレーナーは16名である。修了者の多くが医療機関に勤務する方々であり、スポーツ現場における救急処置や初期評価、試合直前あるいは試合間のコンディショニングには不慣れで実際の現場での実習が必要と考えられるため、平成18年度より県内の大会を利用して熟練したトレーナーのもとでアシスタントを務めながら、実務経験をつむようにしている。

 2007年度に行ったトレーナーステーションを通した現場実習は県民大会サッカー競技会(図10)、県民大会ソフトテニス競技会(図11)、県家庭婦人バスケットボール大会の3競技である。県民大会サッカーおいて現場経験の少ないトレーナーの現場経験のみでなく、熱中症対策、1試合に必要とされるテーピングやアイシング用氷などの所用量の規定が可能となり、県民大会ソフトテニス競技会では、インジャリータイムなどの競技ルールの理解の重要性、トレーナーチームとしてのスタッフの連携など2年後の国体のトレーナー活動に向けて大変重要な場となったことは言うまでもない。

●最後に

 今後の千葉県におけるトレーナー活動の充実に向けての課題として、さらなる国体支援トレーナーのスキルアップ、各競技団体に対してアスレティックトレーナーの必要性の認知を高め代表チームへの帯同の数を増やしていくこと。そして、各専門家とのリンク、特に、県内のスポーツドクターとの連携をより密に図っていくことを考えている。県内のスポーツ医科学サポート体制の構築が、国体終了後も継続して機能していくように、これを機に県内の各専門家とのネットワークを築き、アスレティックトレーナーの役割を認知していただきながら、選手のサポートと教育を充実させていきたいと考えている。

<文献>

1)山本利春:アスレティックトレーナーの任務と役割、日本体育協会公認アスレティックトレーナーテキスト@アスレティックトレーナーの役割、日本体育協会、2007.
2) 山本利春ら:中学校陸上競技大会におけるトレーナーステーション活動 ―ジュニア選手の傷害予防教育の実践―、 陸上競技研究第59:48−54、2004.
3) 山本利春:国際武道大学におけるアスレティックトレーナー教育、 国際武道大学研究紀要20: 63-73 2004.


図10 県民サッカー大会でのトレーナーステーション


図11 県民ソフトテニス大会でのトレーナーステーション

Sports medicine and science support system on athletic trainers in Chiba Pref.
Yamamoto T.*1, Yago K.*2, Okada T.*3, Hashikawa T.*4, Nakajima Y.*5, Kasahara M.*1

*1 International Budo University
*2 Nabeshima Orthpaedic Hospital
*3 Funabashi Orthpaedic Hospital
*4 KitaChiba Spine and Sports Clinic
*5 University of Teikyo

Key word: athletic trainer、sports medicine and science support system、Chiba Pref.

<Abstract> Chiba Pref. has been supporting to sports medicine and science system for the Chiba National Sports Festival in 2010, especially for youth athletes. We, as athletic trainers, organized athletic trainers in this Pref. to cooperate this supporting system. The medicine and science supporting system includes physical examination, and conditioning support at games and training camps, with the concept of education for athletes. In the Chiba National Sports Festival in 2010, we set the athletic trainer station at all of stadiums and hope that job is going to be substantial the emergency medical system and medicine and science support to take care of all athletes, not only athletes in Chiba. For that, there are many athletic trainers needed so that we have held training courses, original of Chiba, and there are around 400 athletic trainers completed. We, moreover, would like to reinforce the networking of Chiba to this structure of sports medicine and science support system is going to be still functional after the National Sports Festival, and make supporting and education for athletes satisfactory with raising the recognition of athletic trainers.